大規模な海洋汚染事故を引き起こしたオイルタンカーであるエリカ号は、海洋環境法制に一石を投じた。このエリカ号事件判決(フランス破毀院2012年9月25日判決)を端緒として、定期傭船者の第三者責任(不法行為責任)法制の方向性を検討した。 エリカ号事件判決により、船舶所有者、船舶管理会社、航海傭船者(事実上の傭船者)、船級協会などといった責任対象者の広がりとともに、環境に対する責任が、環境損害を被った地域・国やEUなどのレベルにおいて重くなる傾向が示されているように思われる。とりわけ、傭船者については、「事実上の傭船者」という、法形式上の傭船者ではなく、実質的経済的な傭船者を対象としている点で、注目に値する。その観点から、一般的には第三者に対する責任を負わないとされている「定期傭船者」の責任のあり方についても、定期傭船契約という内部関係、さらには当該オイル運送についてのスキーム全体を踏まえて検討する必要があるように思われる。 その一方で、運送関係者の環境に対する責任加重は、資金等の拠出者の理解を得られなくなり、条約や基金の体制を揺るがすことになりうることから受け入れられないとして、批判的にとらえる立場もある。 定期傭船者の法的責任に関する議論を整理していく中で、ドイツ海商法の動向、環境損害の回復、船主責任制限制度および船舶油賠法の責任制限制度の意義や範囲に関して、そのあり方の再検討が求められる。その上で、現在わが国の運送法制審議会では、定期傭船者の第三者に対する責任について消極的な規律が支持されているようであるが、その妥当性について判断するための資料提供につなげたい。
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