本研究は、本来は物権法のテクニックを借用して構築されてきた知的財産法が、さまざまな点で不法行為法的な規範へと変容を見せている現状を分析し、知的財産法制の望ましい姿を探求するものである。本研究の目的は、一見すると何ら関係のないようにも見える喫緊の課題、すなわち特許権の均等論、著作権の侵害主体論、特許権の差止請求制限論、著作権のフェアユース規定導入論などを、物権法的性質の意義と限界という一貫した視点から横断的・包括的に検討対象とし、それら諸課題の整合的解決策を提言することにある。 この目的を実現するために、最終年度となる平成26年度は、これまでの研究活動を踏まえつつ、理論的なまとめの作業に力を注いだ。その結果、次のとおりの成果を得ることができた。 第1に、私的複製制度の理論的基礎について検討を加えることを通じて、フェアユースも含めた著作権の制限規定のあり方を、著作権の物権的性質の限界という観点から明らかにした(『著作権研究』掲載論文)。第2に、特許制度の本来的な性質を、特許法における均等論や差止請求制限論などの具体的な制度論を踏まえて検討し、物権構成から契約構成への転換を提言した(『中山古稀記念論集』所収論文)。 今後は、これらの成果を有機的に関連づけて論文の形で公表するとともに、さらに分析を深化させたい。
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