論文「いわゆる取材源秘匿権の諸問題」においては、同権の問題は、その享有主体性に関する問題とその保障の客体(対象)に関する問題に分けることができ、各々の法的問題について検討を加えた。すなわち、これらの問題について、日本法よりも法的蓄積を有するアメリカ法において、前者の問題については、インターネット技術を踏まえた同権の享有主体性を限定する可能性の如何が争点となっている。また、後者の問題については、同権の放棄および破棄の可否、秘匿性の要否、違法な取材に対する同権の援用の如何などが問題となっていた。これらの問題については、同権の目的とされている「公衆への情報の自由な流通」の見地から、問題点を明らかにした。 つぎに、論文「ジャーナリストの法的定義―ジャーナリズムではなく(1)(2・完)」においては、日本法において必ずしも十分に検討されていない同権の享有主体性の問題について、ジャーナリストの法的定義の問題として訴訟上争点となるアメリカの判例を参照することにより、検討を加える。この問題は、インターネットなどの新たなメディアを駆使して情報を伝播できる者(ブロガーなど)が急速に拡大していることに伴い、同権の享有主体も飛躍的に拡大する余地を生んでいる。アメリカ法では、メディア(媒体)に中立的なアプローチから同権の享有主体を拡張して捉える解釈や、制度論的転回のアプローチから報道の可謬性に対する内省などを以って同権の享有主体を限定する解釈などがある。本稿では、同権の目的とされている「公衆への情報の自由な流通」に立脚するならば、また享有主体を限定した結果としての保障客体の不当な限定を避けるならば、メディアに中立的なアプローチを妥当とする。 以上により、取材源秘匿権における(享有)主体と(保障)客体の問題について、体系的な示唆が得られたものと考える。
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