今年度は、2014年に行われたスコットランド独立を問う住民投票が否決された後に、キャメロン首相が住民投票直前に公約したスコットランドへのいっそうの権限移譲を具体化するために、イギリス政府によって準備されてきたスコットランド法案の制定過程に表れたスコットランドの財政自主権の強化と国家統合との相克を検討した。同法案の特徴は、スコットランドにすべての所得税、間接税の10%分、そして航空税などの諸税を移譲するとともに、福祉サービスの一定部分を移譲することにある。 その中で、本研究の目的と密接に関連する論点として、スコットランドに対して不均一な権限移譲をさらに進める改革が、スコットランド政府とイギリス政府、さらには、スコットランド市民とそれ以外のイギリス市民との利害対立を顕在化させている実態を考察した。具体的には、同法制定過程に際して、スコットランド政府とイギリス政府の間では、損失回避原則(no detriment principle)、すなわち、税源移譲の結果が両政府の予算に影響を与えないことと、権限移譲後の両政府の政策決定の結果として損失を発生させないルールが共有されていたが、同法案制定の終盤に至り、スコットランドへの税源移譲が中長期的にスコットランド政府に大幅な歳入不足を生じさせる恐れが、研究者や貴族院で指摘された。最終的に、両政府は問題を先送りして5年後に再検討を行うことで決着した。 以上、不均一性を拡大させる財政自主権の強化と、全国レベルでの納税者間の公正原則を両立させることが困難な現実とともに、結果として同時に批判の多い現行の一括交付金制度の安定性とスコットランドにとっての一定の有意性が明らかにされた。一方、国家統合の新たな理念として、しばしばフェデラリズムが言及されるが抽象的な次元に止まっており、これが具体化され現実の統合原理になりうるかは、なお未知数である。
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