研究課題/領域番号 |
24530127
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 利之 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40214423)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 公選制 / 区 / 特別区 / 行政区 / 都区制度 / 政令指定都市制度 / 大都市 |
研究概要 |
区における区長直接公選制の可能性について論じるためには、現行の都区制度、特に1974年改革の効果を踏まえるとともに、現在の政令指定都市制度の本質を探ることが必要である。 そこで本年度は、前者に関しては、1974年改革を踏まえて特別区が実質的な完全自治体となったことは、自治体としての戦略ビジョンを定める総合計画の策定にもっとも顕著に現れるという観点から、特別区の総合計画の策定の状況について、全特別区に関して調査を行った。そこには、各区ごとの戦略方針の差異が非常に強く見られ、一体性・統一性が強いと言われる通念が該当しないことが明らかとなった。このような差異が、公選区長の影響力の大きさと関係するかが、今後の研究課題である。 後者に関しては、行政区の区長公選制が採用されていない政令指定都市制度の本質を探るべく、戦前の六大市の特別区制論議から、大都市制度論の経緯を追った。戦前の特別市制論議は、大都市地域の大都市問題への一体的圏域的対応、国から自治体への分権、大規模団体としての能力に応じた事務権限の確保、という3つの要素を持っていたこと、そしてそれは、戦間期の都市化(大都市圏の空間の広がり)状況と対応していたことを明らかにした。しかし、こうした戦間期の大都市圏の空間的広がりは、戦後の急速な大都市圏の膨張により実態に合わなくなり、また、戦後改革で府県が自治体化したことによる特別市制の自治的な魅力は失われ、結局は、大規模団体であるということに収斂したことを明らかにした。それゆえに、実質的に行政区の自律的意思を認める区レベルの公選制を政令指定都市制度は拒む傾向があること抽出した。 このほか、現実のいわゆる「大阪都構想」の動向を受けた国レベルの立法である大都市地域特別区設置法に関する制度分析を行った。同法には多様な性格が込められていることが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
政令指定都市制度及び都区制度での区間パフォーマンスの差異を研究するため、まずは特別区側として、特別区での総合計画に関しては、かなり網羅的な研究を行うことができた。総合計画は個別分野ごとでの差異ではなく、区として全体的なパフォーマンスをみる上でもっとも基本的な基盤となるので、この点は予想外の進展を遂げることができた。但し、この延長線上での比較研究を進めるためには、当初の研究計画を修正し、政令指定都市の(全市的な)総合計画及び地区別計画を研究することが求められると思われる。 しかしながら、特別区(東京23区)と行政区(政令指定都市)の制度の相違によるパフォーマンスの異同に関する分析は遅れている。また、実際にも、行政区がそれなりに完結して行っている業務は少なく、両者の単純なパフォーマンス比較は難しい状態である。むしろ、それなりの人口規模を持ち、かつ、市全体として予算配分をすれば財源は手当をできるにもかかわらず、行政区に事務権限・財源・人員を配分しない政令指定都市の政策決定の根拠を問うべきだったと思われる。この意味では、むしろ、都区制度に関しては、都区間の事務財源配分がいかなる論理で決定されてきたのかを研究し、両者を比較することが求められると思われる。 また、制度の歴史研究では、当初の予定では都区制度の1974年改革を先行させる予定であったが、この点の進展は遅れている。しかし、次年度以降に行う予定であった政令指定都市制度の研究を先行させ、大都市自治体制度の本質を大規模団体性にあることを突き止め、区レベルの公選制への忌避性の歴史的淵源を解明することができたのは予想外の進捗であった。 あるものは予想外の進捗を見せ、あるものは遅れを見せており、こうした諸点を総合すると、上記のような総合的な達成度になると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
上記で触れたように、特別区および行政区の単位組織レベルに着目した比較は困難であるため、方向を転換し、むしろ、特別区および行政区総体として、都あるいは政令指定都市本庁との対比で、どの程度の事務権限・財源・人員が配分されたのか、また、その決定の力学は何であるのかを明らかにすることを目指す。 その意味では、都区制度では都区協議や財政調整のあり方、政令指定都市では都市内分権のあり方、という制度問題が大きなテーマとなることが浮かび上がってきた。各区間の差異を生み出すには、そもそも前提として、各区レベルにそもそも事務がなければ差異が生じようがないのであり、いわば差異を生み出す前提条件がいかなるメカニズムで成立したのかを明らかにすることが重要と思われるからである。 その意味では、当初の研究計画で想定していたもののうち、区間パフォーマンス比較研究を後退させ、むしろ、歴史研究を強化し、それを区長公選制の是非に限定するのではなく、区への分権、大区役所・小区役所主義などの区役所改革、区の区域再編、などの制度問題を幅広く取り上げることとしたい。 また、制度研究が中心となるため、国内比較研究・国際比較研究も、上記の関心に沿って、幅広に進めることが望ましいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的には、東京都区及び大阪市の制度歴史の調査研究を中心とするため、調査旅費及び文献資料費が中心となる。場合によっては、聴き取り調査のための費用が必要になるかもしれない。 また、国際比較研究としては、アムステルダム市の都市内分権の研究ため、調査旅費及び文献資料が必要となるであろう。これ他の諸点は、ほぼ当初の研究計画通りである。
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