研究課題
本研究の狙いはフィリピンにおいて導入された民主主義制度が現実社会の中でどれほど機能し、あるいは機能していないのかを、制度を運用する主体に注目をして明らかにすることにあった。最終年度である平成26年度は、主としてマニラと南カマリネス州における貧困層と地方行政機関スタッフへのインタヴュー、セブ州における社会事業と住民の関係を中心に現地調査を行った。その際に住民の生活実践に対して草の根団体や行政機関がどのようにかかわり、住民の生活戦略や政治的意識にいかなる変化を与えてきたのかについて考察した。また選挙時における地方政治家による選挙票買収についても情報収集を行った。民主主義制度が、実際にどのように住民によって行使され、また政治家がそれをいかに利用しているのかを考察するためである。なお前年度に行った調査の一部は「2014年アジア太平洋研究国際集会」(台湾國立中山大学)にて報告し、他の研究者からの意見をいただいた。研究期間3年間を通じて行った調査情報をもとに以下の知見を得た。フィリピンでは近代国家制度、民主主義的制度を導入しながらも、社会に広く浸透するパトロン・クライアント関係、必ずしも政治的意思表示をしない住民、制度に拘泥しない生存戦略、国家枠組みさえに超えた生活戦略などの市民意識や社会構造・政治文化が、期待通りにそれら制度が機能しない実態を作りあげている。しかしこれは単に、フィリピン社会が政治的に遅れている、あるいはフォーマル制度とインフォーマル制度が混在していると解釈されるのではなく、近代的政治枠組みを超えたところでフィリピン政治が機能しているという理解が必要であろう。
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神戸大学大学院人間発達環境学研究科紀要
巻: 8 ページ: 97-103
A paper submitted to the 2014 International Conference on Asia-Pacific Studies,
巻: 1 ページ: 1-11