研究課題/領域番号 |
24530139
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木村 俊道 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80305408)
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キーワード | 文明 / 帝国 / 人文主義 / ジェイムズ1世 |
研究概要 |
本年度は、スコットランドやアイルランドを含めた、初期近代ブリテンにおける「文明」と「帝国」をめぐる同時代人の言説の解明を課題とした。その作業を進めるなかで、とくに注目したのがイングランド王ジェイムズ1世(スコットランド王ジェイムズ6世)の政治思想である。 ジェイムズは一般に、王権神授説を主張し、絶対王政の正当化を行った専制君主として知られている。しかし、君主教育論としての『バシリコン・ドロン』や、イングランドとスコットランドの統合を目指した彼の議会演説などを読み直してみると、神学的な議論に解消されえない、彼の政治思想の人文主義的な側面が浮かび上がってくる。 本年度はまた、「文明」と「政治」をめぐる彼の言説や、ジョン・ロックによるジェイムズ評価、そしてベイコン、クラレンドン、ニューカースル、ハリファックスといった顧問官の議論を中心に、1603年における王冠の統合から1707年の政治統合に至るまでの、多元的・複合的な君主国としてのブリテンを支えた政治学の再生産の過程を明らかにした。それはまた、通俗的な「啓蒙」の観点からは必ずしも見えてこない、ヒュームやバークにも連なる君主主義の伝統や、初期近代における「文明の帝国」の歴史的な再評価を促すものでもある。 本年度は、昨年度までの研究成果を共著(『政治概念の歴史的展開』)などの一部に反映させるとともに、以上の研究をまとめ、『岩波講座 政治哲学』第2巻(「君主主義の政治学―初期近代イングランドにおける「文明」と「政治」」)に寄稿した。また、以上の過程において、ケンブリッジ大学図書館やオックスフォード大学ボードリアン図書館、早稲田大学図書館などで資料の収集と調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初はイングランドだけでなく、スコットランドやアイルランドにも広く目を向ける予定であったが、分析の対象がイングランドに偏り、他の地域にまで充分な目配りができていない。その一方で、多元的・複合的国家を支える君主の役割や、初期近代における君主主義の重要性が明らかになってきている。したがって、同時代における「文明」と「帝国」の認識を明らかにするという目的は変わらないものの、その解明に至るための新たな課題が出てきたため、当初の予定よりもやや遅れた進行状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、スコットランドやアイルランドとともに、1607年のジェイムズ・タウンの建設から独立に至るまでのアメリカを検討対象に加える。「ブリテン」の政治思想に「アメリカ」が与えた影響を、スコットランドやアイルランドなどの事例と比較しながら、とくに「文明」や「帝国」の観点から考察する。このような観点から、昨年度に取り上げたジェイムズ1世やベイコンなどを起点とし、18世紀のエドマンド・バークやアダム・スミスなどに至る多元的・複合的国家のヴィジョンの変遷を再検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入を予定していた図書(1冊)の発行が遅れ、年度内に入手できなかったため。 前年度に入手できなかった図書を購入する。
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