研究実績の概要 |
本研究計画はシンガポールの政治体制が安定している理由を、同国の治安維持法に注目して明らかにすることであった。同国の治安維持法(現在の名称は国内治安法(Internal Security Act, ISA))は、太平洋戦争終後の1946年の重要令にその起源を持ち、名称を変えながらも今日まで一貫して維持されているが、今回の研究計画では戦後からシンガポールが英国支配を離れるまでの期間を主たる研究対象にした。 研究を進める上で必要な先行研究、法令、年報、官報などはシンガポール国立図書館、およびシンガポール国立大学図書館にて収集した。その一方で、シンガポールが独立する以前の資料は英国国立公文書館にて収集した。 こうした資料を整理した結果、国内治安法(当時の名称は公共の安全を維持する条例(Preservation of Public Security Ordinance, PPSO))はシンガポールに内政自治権を認める新憲法制定過程において、そして内政自治権獲得後の新政権(人民行動党(People’s Action Party, PAP)政権)の安定を考える際に欠かせない要因であったことが明らかになった。例えば、シンガポールに内政自治権を認める新憲法が理想とする社会秩序は、同条例が規定する社会秩序、すなわち英国が期待する社会秩序を実現する内容になった。また、同条例と新憲法下での国会議員の要件を結びつけることによって、新政権の政治的指向性を一定程度コントロールすることが可能となった。また、新政権も植民地時代に制定された同条例を廃止することなく、同条例は結果的に新政権の基盤固めに役立った。 こうしたシンガポールにおける社会の秩序を規定する同条例の役割を、当時のマスコミ報道や英国、シンガポール両政府の公式発表からだけではなく、新たに公開された秘密文書によって明らかになった新事実からも確認できた。
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