ベルギーは2010年6月の総選挙以降、民族対立によって連立政権形成に手間取り、1年半 という長期の政治的空白と分裂危機に陥った。本研究は、その要因を明らかにしようと するものであった。そのため本研究は「連邦制度が逆説的な影響を及ぼした」ことを前提として、計四度の連邦制導入改革(70年、80年、88年、93年の憲法改正時)時の政権形成交渉過程における交渉参加過程に注目し、どのようなアクターがどのような意図を有していたか等を見て、連邦制度に含意される意図を見抜こうとした。 研究の結果明らかになった重要な点は、第一に、ベルギーの連立交渉の場合、通常のいわゆるアクターの合理性を前提とする「空間モデル」での説明がつかないということである。それはベルギーに特有の言語クリーヴィッジによる。かつ憲法改正故に(三分の二以上を必要とするため)過大連合になりやすい。いわば「逸脱事例」となる。第二に、その連立形成に国王の意図が大きく影響している点はベルギーの特色であった。これはベルギーが大国の意図に左右されてきた「歴史」に大きく依存している。この点も合理的モデルが適応できない理由の一つである。つまりベルギーの連邦制とはその時々の政党内外のアクターの意図が複雑に絡む。そのこと自体が「逆説的効果」を生む要因であろう。 最後に、時期は範囲外だが、ちょうど期間内に行われた2014年の連立交渉については、通常のモデルに近い形になっている。第一の点、第三の点については2015年日本政治学会での報告が決まっている。ならび単著(松尾2015)でも論じている。第二の点は単著(松尾2014)で成果公開した。
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