平成27年度の実績としては、第一にインドネシアの政軍関係と市民社会をめぐる問題について論文にまとめ、「民主化期のインドネシアにおける政軍関係と市民社会」とのタイトルで酒井啓子編著『途上国における軍・政治権力・市民社会――21世紀の「新しい」政軍関係』(平成28年3月発行)に掲載した。 第二の実績としては、政軍関係と国防政策との関係性について「民主化期インドネシアにおける脅威認識の変容と政軍関係」と題する論文にまとめた。これは国際政治学会の学会誌『国際政治』第185号に掲載が決まっている(査読済み、平成28年度中に発行)。この論文の執筆のために、平成27年8月にインドネシアと中国との間で領有権問題があった南シナ海最南部のナトゥナ諸島を訪れ、国境付近の防衛や対外的脅威についての観察・聞き取り調査を行った。 第三の実績としては、民主化期を前後したインドネシア政府と社会の国境認識の変容についてである。これは、平成28年6月18日のアジア政経学会で発表することになっている。 以上、2本の論文の執筆によって、平成24年度から4年間にわたり進めてきた民主化後のインドネシアの政軍関係については、一定の成果を出すことができたと思われる。民主化に伴う軍の統制のための法制度の構築とそのプロセスを説明した上で、2005年以降軍改革が鈍化したのは市民社会の態度変化に起因することを提起し、その背景となっている領土・国境問題の浮上とナショナリズムの台頭、内から外への脅威認識の変化を明らかにした。
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