研究課題/領域番号 |
24530155
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
松下 洋 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (60065464)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 1945年10月17日事件 / 労働運動 / CGT / ペロン / 社会正義 / 労働党 / 個人崇拝 / ペロニズム |
研究概要 |
今年度の研究は、1945年10月17日事件以後のアルゼンチン労働運動の政治化プロセスを分析することにあった。同日、CGT(労働総同盟)ゼネストを指令するとともに、首都圏で未曽有の大規模なデモを展開し、幽閉の身となっていたペロンの釈放に成功した。類似の運動は地方の諸都市でも起こっていた。こうして、自らの政治力を自覚した労働運動の指導者は10月24日、社会正義と民族主義を主なスローガンとする労働党を結成し、政治の場での制度化に乗り出す。同党は46年2月に大統領選においてペロンの勝利に大きな役割をはたすが、自立的労働運動の発展を危惧したペロンによって同年5月解体を余儀なくされ、新設のぺロニスタ党に吸収されていった。 こうした経緯を踏まえ、平成24年度は以前から収集してきた資料を基に、地方における45年10月17日事件の展開を調べた。その結果、類似の運動が国内数か所で起こったことは事実だったが、労働党の結成は首都圏の労働運動指導者によって進められ、地方労組の影響力は皆無に近かったことが分かった。また、労働党の結党宣言や綱領には労働者の実力を初めて認識した高揚感が窺えたが、それらに盛り込まれた労働者の主張は合理的であり、感情的ではなかったことも確認できた。 ところが、46年2月の大統領選に際して、党の候補者としてペロンを擁立した頃から、労働者の間にはペロンを個人崇拝の対象とする情緒的ぺロニズムが台頭し、党内の労働運動重視派との対立が顕在化し始める。そして、ペロンが後者に対する締め付けを強めた結果、前者が優勢となり、46年5月に労働党は解党に追い込まれた。同党は7ヵ月存続しただけの短命な組織であったために、ぺロニズム誕生期におけるその意義は軽視されることが多いが、労働者の感情を加味してぺロニズムと労働運動との関係を探ろうとする本研究にとっては、極めて重要であることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究が大幅に遅れたのは、平成24年4月以来学部長という要職にあって、往復に4日を要するアルゼンチン出張が不可能だったことである。それでも、「研究実績の概要」に記したように、以前から入手していた資料や本を利用して、本年度予定した研究をある程度進めることが出来たが、現地調査が出来なかったことは、次の三点において本研究の進展にとって致命的であった。 第一に、研究の実践者である松下は、従来から実証的手法でアルゼンチンを中心とするラテアメリカの労働運動や政治運動の分析を行ってきた。なかでも、ぺロニズムの形成期(1930-45)についての膨大な資料の渉猟に基づく労働運動とぺロニズムとの関係に関する詳細な研究(西語と日本語)は、日本国内のみならずアルゼンチンや米国の学会からも高い評価を得てきた。それだけに、ペロニズムの政権担当期(1946-55)についても、一次資料を駆使した研究を上梓したいという気持を捨て切れないのである。 第二に、本研究では「研究実績の概要」でも触れたことだが、労働者の中に、情緒的で個人崇拝的なぺロニズムを支援するグループと労働者の自立的な運動を志向するグループが対立したことは、極めて重要なできごとだったが、この二グループの対立の詳細を明らかにするには、現地の一次資料を参照することが不可欠なことである。 第三に、現地踏査なしでは、テーマに関する先行研究の整理も困難なことである。確かにインターネットの普及に伴い、外国の文献が入手しやすくなったことは事実だが、先行研究のまとめを意義あるものとするには現地でのフィールドワークが依然不可欠である。 以上の理由から現地での調査が出来なかったことが研究の進展に大きな壁となったといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は現地踏査が出来なかったために、労働党を中心としたペロンと労働運動との関係についての論文を完成する事が出来なかったが、平成25年度は現地踏査を実施して、必要最低限の資料に目を通して、この点に関する論文をまとめたいと思っている。 特に、労働党については、その綱領、設立宣言など制度的側面の検討を終えているので、現地踏査では1946年の大統領選等を契機に表面化したペロンへの個人崇拝を是とするグループと自立的な労働運動に固執するグループとの対立を資料的に裏付け、何故、前者が勝利し、それがその後のぺロニズムの展開、とくにぺロニズムと労働者との関係の推移にどうかかわるかを明らかにする。 それを終えた後に、二年目の課題であるアルゼンチンの労働運動とエビータの関係についての研究に入ることにしたい。この研究の中で重要な一面をなすエビータについてはすでにスペイン語と英語による研究の蓄積があり、その中のいくつかは邦訳されており、先行研究の整理は比較的容易であると思っている。また、エビータに関しては、日本国内でも国会図書館、上智大学、アジア経済研究所等を何度も訪問して資料収集に当たりたい。 ただし、エビータと労働運動との関係はこれらの書物では断片的にしか論じられておらず、本研究はこの点を掘り下げることを目指している。この作業を進めるためにも、現地踏査は不可欠であり、それを起点に研究を推進できると思っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はアルゼンチンへの現地調査を実施する。期間は2週間を予定しており、同国までの旅費が30万円程度、宿泊費が15万円程要するものと思われる。また、アルゼンチンではコピー代金(2万円程度)のほか、書籍、雑誌等の購入費用に10万円ほどが必要になるものと思われる。また、国内の諸機関にももっと足を運ぶ予定であり、首都圏ではアジア経済研究所、国会図書館、上智大学図書館の利用を考えている。関西圏では神戸大学経済経営研究所の南米文庫を利用したい。 さらに、本研究に関連した英語と邦語の文献も出来る限り収集したいので、そのための費用として10万円、コピー等で2万円を使用する事になると思われる。
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