研究課題/領域番号 |
24530155
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
松下 洋 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (60065464)
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キーワード | 労働運動 / ぺロニズム / 情緒的支持 / 制度化 / 労働党 / エビータ / ペロン / 合理的 |
研究概要 |
昨年度に引きアルゼンチン労働者が何故軍人であったペロンを支持したのかを、新しい視点から検討した。具体的には、昨年来労働者のペロン支持に見られた情緒的支持と、労働者が自ら勝ち取った権益を恒久化するために制度化(労働党の結成)に走ったことを軸に労働者とペロンとの関係を探ろうとした。いわば、情緒という心理的側面と制度化という、二つの柱を軸にこの問題にアプローチしたのである。この二つの柱は確かに相補的ではなく矛盾する面が少なくない。実際、昨年度の研究では、労働者が幽閉の身にあったペロンを、1945年10月17日事件(労働者が共和国史上未曽有の大規模なデモを首都のブエノスアイレス市において展開して、幽閉されていたペロンを救出した)から11月の労働党を結成と46年6月のぺロニスタ党の結成への労働者の参加に至るまでの期間について考察を進めたが、情緒と制度化という二面を用いて分析するのは容易ではないことが分かった。 そこで、今年度は労働者のペロン支持を、大衆と指導者(ミリタン)に分け、前者は情緒的な支持をペロンに与え、後者はより冷静で合理的な判断が出来たグループであり、後者は労働者の熱狂的な支持を巧みに利用しつつ、制度化への協力を含むペロンとの連携を通して労働者の地位の向上を図ったのではないかという仮説を立て、こうした視点から分析を試みた。その結果、上記の期間についてより明確な解釈が可能となり、それに続くエビータと労働者とぺロニズム運動との関係が密になる時期についても、現在こうした視点から研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究が大幅に遅れたのは、昨年度と同様な要因に基づくものである。すなわち、平成24年4月から本年3月まで2年間学部長という要職にあって、アルゼンチンにフィールド・ワークに出向く時間を確保できなかったのである。現地調査のないままにペロニズムと労働運動に関する研究を、邦語でもまたとくにスペイン語で公刊することは ためらわざるをえなかった。それは、本研究の代表者である松下が1983年に現地で『アルゼンチン労働運動1930-1945:ペロにズムへの投影』(シグロ・ベインテ社)を上梓しており、同書は実証性とオリジナリティの点から高く評価され、民間の研究組織であるCEICS(社会科学研究・調査研究センター)により本年5月末には復刻版が出版され、6月7日には出版記念の講演会が予定されている。それだけに、旧著と比べて劣ったものは出せないと思っている。少なくとも現地調査をある程度実施してから公刊したいと思っている。 なお、現地には調査に行けなかったが、すでに以前から収集していた資料や科研費で購入した図書、さらには上智大学イベロアメリカ研究所で入手した雑誌論文などにより、旧著とは異なった視点をある程度獲得できたと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
本年4月から学部長職を解かれたので、今年は現地でのフィールド・ワークを実施する予定である。とくにエビータに対する労働者大衆の熱狂的支持とミリタンたちのより合理的な行動がぺロニズムの推移とどのようにかかわったかを46年から52年にエビータが急逝するまでの時期と急逝から55年のペロニズム政権が崩壊するまでの時期に分けて考察する。また、上述したように、6月7日には、旧著の復刻の出版会において講演することになっているので、演題を「労働運動と初期ペロニズムとの関係:新しい解釈を目指して」とし、本科研を通して獲得した私なりの分析視座を披露して、アルゼンチンの研究者から様々な意見を伺い、今後の研究に活かしたいと思っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年4月から平成26年3月まで、学部長の要職にあったために、現地でのフィールド・ワークを実施できなかった。現地はアルゼンチンで日本から遠いために、科研費の大半は旅費となる予定であったが、その年間分を平成26年度に繰り越した。 本年度はアルゼンチンへ少なくとも2回出張する予定である。一回目は6月初めに今回の科研に基づく研究成果を中間発表するためである。もう一回はまだ時期は未定だが、、資料収集のために赴くことになろう。また、東京に資料収集のために何度も出張することを計画している。さらに、アルゼンチンに赴いた際には、図書の購入にも努めたい。
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