研究実績の概要 |
2014年6月に、拙著『アルゼンチン労働運動 1930-1945:初期ペロニズムへのその投影』(西語、初版1983年)の復刻版がブエノスアイレス市のCEICS(社会科学調査・研究センター)によって出され、出版記念の講演を6月7日にブエノスアイレス大学文学部において行った。講演では、ペロニズムをめぐる解釈の変遷と今後の自分の研究方針を主なテーマとし、前者では30年前に自分が独創的な解釈に到達した経緯を、後者では今後の研究方針として労働者の心理や感情をも視野に入れた労働者とペロニズムの関係(なかでもエビータに対する熱烈な支持)の分析を目指したいと述べ,約1時間の講演を終えた。 7月からはエビータと労働運動の関係の分析に入る予定だったが、アルゼンチン滞在中に近年のアルゼンチン政治においてエビータが非常に高く評価されていることを指摘され、それが何故か、それは半世紀以上も前に労働者大衆が示したエビータ崇拝といかにつながるのかを調べる必要を痛感した。実際、ペロニスタを自認しつつも、ネストル・クリスティーナ(2003-07)とクリスティーナ・キルチネル(2007-2015)大統領夫妻は、特に後者においては、ペロンではなくエビータ崇拝が顕著なのである。また、両大統領ともに、1970年代ゲリラ組織に思想に共鳴していることを公言してはばからないが、最大のゲリラ組織だったモントネーロは70年代に政府の弾圧を受けつつも刊行を続けた機関誌に『エビータ・モントネーラ』というタイトルを付し、彼女への畏怖の念を率直に示していた。この雑誌などに依拠しながら、70年代のゲリラ思想のなかで21世紀のぺロニスタ両政権が再評価しているのはどんな発想なのか、それが具体的にどのように、政府の政策(特に外交面)に反映されているかを探ったのが「21世紀アルゼンチン・ペロニスタ外交に見る1970年代ゲリラ思想の影」『研究論集』第12集(河合文化教育研究所、2015年5月発行)である。
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