最終年度に実施した研究を、2本の論文をまとめた。一つ目の論文で、高齢者が交流するために地域住民が設ける、いきいき・ふれあいサロンに関してすでに実施されている研究を概観した。サロンの設置やサロンの運営に、地域の特徴がどのように影響しているかを明らかにする余地があることを確認した。 住民による福祉の活動や、福祉行政が、地域の特徴に影響を受ける可能性があることを踏まえ、二つ目の論文で、1989年度以降において、地域の特徴が福祉にどのような影響を及ぼすかを確認した。社会的ネットワークを地域に構築しやすい条件などを独立変数とし、都道府県と市町村の老人福祉費と児童福祉費を従属変数とし、重回帰分析を行った。分析によって、社会的ネットワークは地方自治体に代わって住民に福祉サービスを提供するように機能するのではなく、地方自治体に福祉サービスの必要性を認識させるように機能していることが明らかになった。 地域における住民間のつながりが強くても、地方自治体が提供する福祉サービスの代わりになるほどの助け合いをすることはできないということが、研究によってわかった。住民間のつながりが強い地域においても、1989年度以降においては、地方自治体による福祉サービスの提供は、重要になっている。 交付申請書に記載した「研究の目的」である、1990年代以降の地方自治体が提供する福祉サービスに対する社会的ネットワークの影響を、確認することができた。「研究実施計画」では、特定の地域で、1990年代の福祉政策の作成にかかわった者への聴き取り調査を行うことにしていたが、研究にとって必要な情報を得ることができなかったため、最近の取り組みに関する聴き取り調査を実施することに切り替えた。
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