2014年度は研究計画の最終年度であるが、中東欧諸国における福祉の枠組みが変動しつつあることに伴い、主要な制度を軸に現在の変化を改めて確認すると同時に、中東欧諸国の福祉レジームをヨーロッパとの比較の中で位置づけるという作業を行った。 まず現在の変化に関しては、特に中東欧諸国の年金制度において第2段階となる「基金型年金」の縮小がみられることに注目し、その背景には市場状況の悪化の他制度設計の失敗、制度移行のコストの上昇、およびEUの財政基準の遵守の必要といった要因がある。ただし制度の改編の形については、財政基準を満たしているバルト3国では規模の縮小のみが実施され、またチェコでは新たに第2段階の年金を導入するという動きがみられたのに対して、財政基準を満たしていないポーランドとハンガリー、および社会民主主義系の政党が政権を獲得したスロヴァキアでは制度そのものの改編ないし廃止が行われたという相違があることを明らかにした。またこの研究を通して、ネオリベラリズム的な経済政策の限界が生じたときに、全くの反ネオリベラル的な政策をとるか、教条的にネオリベラル的な政策を続けるか、あるいは妥協的なネオリベラル路線をとるかという選択がありえるが、妥協的な路線以外は持続可能性が低いことも明らかにされた。 次に中東欧の福祉レジームの位置づけに関しては、「脱商品化」および「脱家族化」という視点から他のヨーロッパ諸国との比較を行い、そこからエストニアとスロヴェニアに関しては両方とも相対的に進展しているのに対して、チェコとスロヴァキアは脱家族化の進展が進んでおらず、ハンガリーは両者の中間程度、そしてポーランドはいずれの程度も低いということが明らかにされた。これは申請者の従来の研究成果が、多国間比較を通しても通用するものであることを示すものとなっている。
|