研究課題/領域番号 |
24530169
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松野 明久 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (90165845)
|
キーワード | 海外調査研究(インドネシア) / 文献資料収集(インドネシア、オランダ) / 国際会議発表 / 国際情報交換(トルコ) |
研究概要 |
当該年度においては、インドネシアにおける聞き取り調査及び文献資料収集を4度行った。また、オランダでの資料収集を2度行った。そして、トルコのアンカラで行われた第7回アジア政治学会議で発表を行った。 まず当該年度は(他の財源も用いて)インドネシア・バリ島へ4回の訪問を行い、合計15人のインタビューを行うことができた。とくに成果があったのはこれまでなかなか関係者を発見できなかったバリ島東部方面を始め、州都デンパサールでの軍の掃討作戦、西部ジュンブナラ県のある村での掃討作戦について決定的に重要な証言が得られたことである。また、バリにあるウダヤナ大学の関係卒業論文をいくつか複写し、ジャカルタの中央統計局でバリの過去の統計を若干収集した。 次に、ライデンにあるKITLV(王立言語学人類学研究所)所蔵のインドネシアの9月30日運動(ウントゥン中佐の未遂クーデター事件)の裁判(特別軍事法廷)の公判記録の関係部分から必要な情報を収集した。これらの資料にはバリ島の事件展開についての直接的言及はないが、共産党特別局(軍担当の秘密部局)の動きについて参考になるところが大きい。 一方、10月にアンカラで行われたアジア政治学会議(APISA 7)で、Gene and Creed: Understanding Cold War Politicide in Asia(遺伝子と教条:アジアのポリティサイドを理解する)と題する発表を行った。趣旨は政治的殺害は国際法のジェノサイドには分類されないが、政治信条を人間の不可分な属性と見なす考え方がアジア(及びその他の地域)にはあり、集団破壊の意図の中にジェノサイドと共通する認識を見いだすことができるというものである。この観点でロシア、中国、カンボジアの事例に共通点を見いだした。 当該年度の調査で、資料収集にはひとくぎりついたと考える。あとは論文執筆のみである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した本研究の目的は、事例研究としてバリ島における冷戦期ポリティサイドの全体像を描き出し、その展開プロセス、作戦の指揮系統、民間人武装化・動員、プロパガンダの様態及び殺害方法等modus operandi(手法・手口)を明らかにし、比較研究に資する分析枠組を提示することである。比較研究ののちに、ポリティサイドの一般化、予防措置の研究などを行うという構想になっている。 3年に及ぶ研究計画において2年目にあたる当該年度の調査で、資料収集・聞き取り調査についてはひとくぎりつき、あとは論文執筆のみとなったと考える。資料収集においては、米コーネル大学、オランダKITLV(王立言語学人類学研究所)所蔵の特別軍事法廷記録や1965年当時のバリの地方新聞を閲覧できたことが研究を大きく進展させた。とくにバリの軍事法廷の記録はこれまで資料として使われたことがなく、これを発見したことの意義は大きい。また、聞き取り調査は、当該研究期間前からのものも合わせて70件近くに及び、膨大な量となった。 一方、理論的な進展については、初年度にバリ島での国際会議でパネルを主催してカナダ、シンガポール、インドネシアの研究者たちと討論を行い、2年度にトルコでの国際会議で単独発表を行い、概念的整理を行った。これらの討論や発表を通じて、問題の整理、論文に書くべきことの概要は明確になった。論文の構成もほぼかたまった。 あとは論文を執筆するのみであるが、本研究における主要なfindingsは、個々の事件の掘り起こし、掃討作戦の全体的パターン、関係した部隊の確定、民間人動員の手法といった真相究明部分と、イデオロギーの特徴、冷戦的要因(国際関係)とローカルな政治・社会対立要因(国内政治)の絡み合いといった分析的部分とに分けることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる今年度は次の5つの活動を軸に研究を推進する。 まず、第一に、6月に「冷戦期ポリティサイド研究の新方向~インドネシアを事例として」と題する研究ワークショップを大阪大学において開催する。海外から7人、国内から4人の研究者を招へいして、近年の研究成果を整理し、課題と展望を議論する。また、本研究を発展させるため、国際共同研究を構想する。(これは本補助金に加え、大学内部の研究助成である大阪大学国際研究会議助成140万円を得て実施される。)第二に、6月の東南アジア学会で、インドネシア9・30事件に関するパネルが実施されるが、そこに発表者として参加する。(すでに決定している。)第三に、補足的な調査をインドネシアにおいて行う。第四に、8月にイスタンブールで開催される国際平和研究学会(IPRA)の国際人権部会において研究発表を行う。(すでに発表を承認されている。)第五に、英語での論文執筆を行い、学術雑誌に投稿する。 採択された本研究課題の期間の研究は以上で終了するが、現時点において十分な成果が見込まれるため、さらに発展させることを検討している。現在、インドネシアの事例については、インドネシアとオーストラリアに研究者群があり、カナダ、シンガポール、オランダ、そして日本に専門的に探求している研究者がいる。本研究の発展のためにはこうした内外の研究者で研究チームをつくることが望ましく、国際共同研究を発足させたいと考えている。上にあげた第一の活動はそのために必要なステップである。さらに、比較研究として有意味な事例は、ラテン・アメリカ、中国、ロシア(旧ソ連)にあり、これに国際人権法・人道法の専門家を加えて、共同研究の枠組は完結することになる。これらに至るまでにはさらに数年を要すると考えているが、展望は開けてきていると考える。
|