研究課題/領域番号 |
24530173
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
六鹿 茂夫 静岡県立大学, その他の研究科, 教授 (10248817)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ウクライナ危機 / クリミア / マイダン革命 / 狭間の地政学 / 広域ヨーロッパ / 修正主義 / 東方パートナーシップ / 分離主義 |
研究実績の概要 |
2014年3月にクリミアがロシアに併合され、4月にウクライナ東部で武力紛争が開始されたため、平成26年度はウクライナ危機の原因について、本科研の研究テーマである「狭間の地政学をめぐる広域ヨーロッパ国際政治」の視点から研究を行った。研究の意義は、ウクライナ危機が冷戦後の欧州国際秩序を覆すほどの重要性を有していることにあるが、ロシア東欧学会および日本国際政治学会がこのテーマを取り上げたことからも明白である。 研究の成果を要約すると、ロシアによるクリミア併合は、冷戦後の欧州国際秩序、狭間の地政学、価値をめぐるトランスナショナルな対立構造の3つの要因に起因する。第一は、ドイツ統一をめぐる交渉過程において形成された冷戦後の欧州国際秩序が、EUとNATOを核としたものとなり、ロシアが同秩序から排除されて潜在的な修正主義国になったことである。第二は、2004年春のEU/NATOの東方拡大後、EU/NATOとロシアの狭間に生じた新たな力の真空をめぐって、両者のせめぎあいが激化した。両者は、NATO拡大のみならず、2009年春に開始されたEUの東方パートナーシップとロシア主導の関税同盟をめぐって対立した。加えて、プーチン大統領の政治基盤が現実主義派から民族主義派へと傾斜したため、ロシアが紛れもない修正主義国家に転じたことである。第三は、EUやNATOの価値の輸出と関連して、民主化支援勢力と反対勢力のトランスナショナルな対立構造が、ウクライナなど旧ソ連諸国とロシアの間に出来上がったため、ウクライナのマイダン革命がモスクワに飛び火する可能性が懸念された。それ故、プーチン政権はまずクリミア併合を断行して国内支持基盤を固め、次いでウクライナ東部の分離主義勢力を支援して、東部に外交権を含む強大な権限を持つ共和国を創造し、ウクライナを連邦化することで、同国をロシア勢力圏にとどまらせようとしたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2013年11月のEU東方パートナーシップ市民会議に参加し、同パートナーシップをめぐる欧米とロシアの対立の厳しさを改めて認識したが、その後も引き続き本科研の計画通り研究を進めた。ところが、2014年2月から3月にかけて突如ウクライナ危機が起き、所属するロシア東欧学会や日本国際政治学会から同テーマについて報告するよう依頼が来たため、ウクライナ危機を中心に研究を進めざるを得なかった。また、ウクライナ危機は冷戦後の欧州国際秩序を覆す程に重要な出来事であるばかりか、まさに本科研のテーマである「狭間の地政学」をめぐる広域ヨーロッパ国際政治の重要テーマであるため、避けて通れない研究テーマとなった。しかしながら、当初研究計画にはなかったウクライナ危機の研究に着手したため、本科研のもう一つの重要な柱である「狭間の地政学」をめぐる歴史研究に時間を割くことができなくなったのである。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、ウクライナ危機がなぜ起きたのかを、冷戦後の欧州国際秩序の文脈において研究した。本年度は、同ウクライナ危機が冷戦後の欧州国際政治に如何なるインパクトを及ぼし、今後欧州安全保障体制が如何なる方向に向かいつつあるのかについて、EU、NATO、OSCE、ドイツ、ロシア、ウクライナ、バルト諸国や中・東欧諸国、トルコ、ジョージアなど黒海地域において聞き取り調査を行う。また、最終年度に当たるため、歴史的な分析も行い、当初予定した「狭間の地政学をめぐる広域ヨーロッパ国際政治」研究を完成させる所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、ウクライナ危機に関する研究と学会報告の準備に忙殺されたことに加え、2015年3月に予定していた2度の海外研修が、2月7日に大病を患ったため履行不可能となり、計画を実施することができなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、9月に、EU、NATO、OSCE,ロシア、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ、モルドヴァ、ジョージア、トルコなどに赴き、専門家や外交官から聞き取り調査を行う予定である。また、ウクライナ危機、欧州国際秩序、欧州安全保障体制に関する書籍を購入する。さらに、8月の国際会議に執筆予定の英語論文のための、ネーティヴ・チェックへの謝金として研究費を使用する予定である。
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