研究課題/領域番号 |
24530175
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
青井 千由紀 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (60383494)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 平和活動 |
研究概要 |
実績 聞き取り調査、資料収集はほぼ計画通りに進行した。英国においては平和支援活動関連ドクトリン起草担当部署、起草者より改訂の方向性について、また統合レベルでの関連概念整備の展開について説明を受けた。また、米国もドクトリンが全般的に改訂時期にあたっていることが判明し、受け入れが可能であったので、平和活動及び安定化ドクトリン起草担当部署、起草者より説明を受けた。さらに、学会(特に日本国際政治学会)や研究者との交流を通じて、平和活動関連概念の展開と、ドクトリンに影響を与えると思われる事象(具体的事例や文民の保護などの概念)の展開について意見交換を行った。 意義 現段階での学術的成果として、1)英国、米国での改訂作業の方向性と問題意識が明らかになり、2)ドクトリン改訂の交渉過程と進行度が明らかになった。具体的には、英国では独自の平和支援ドクトリンではなくNATO のものを採択し(NATO平和支援ドクトリン起草担当は英国)、原則上は既存の平和支援の原則をほぼ引き継ぐ方向で進んでおり、昨年段階では議論されていた改訂予定が変更された。米国では、2012年に平和活動ドクトリンが改訂されたが、これは概念全般の改訂の一環である。その過程で、米政府レベルでの包括的アプローチからの後退が見られることが明らかになった。英米担当者によれば、国連事務局が発表した2008年ドクトリンの改訂作業は特に現状では行われておらず、国連では一般概念よりも現場レベルでの指針作りに焦点が当たっている。 重要性 当該年度において、世界レベルで平和支援活動に大きな転換が見られ、ドクトリン(及び改訂努力)と活動の現状とのギャップが懸念される。具体的には、不安定な状況に国連平和活動が再び展開していることである。平和活動の理論化において、実施と概念の関連性を検証することが一層求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)研究の目的は、近年の国際平和活動の変遷を経て、主要国(英、米)及び国連(事務局)における平和活動ドクトリン改訂の動きを検証することである。そのための調査として、今年度は英国、米国での調査を予定したが、おおむね改訂の過程に関する事実調査を実施することができた。英国では、改訂努力が遅れてはいるが進んでおり、NATOドクトリンをまず改訂し、それを英国のものとして(留保などつけつつ)用いることとなり、英国独自の平和支援活動ドクトリンは保有しないこととなった。平和支援の原則は、平和強制の定義を見直しつつもほぼ引き継ぐこととなった。(2013年度末時点ではまだドラフト起草段階)。米国では、2012年に平和活動ドクトリンが改訂されたが、全般的に包括的アプローチ、安定化枠組みからの後退が見受けられる。一般概念レベルでも大きな枠組みの変動があった。 2)また、平和活動の現状に照らして、ドクトリン、概念の発展に寄与する学術的考察を行うことも本研究の目指すところである。これについては、ドクトリン起草者の問題意識と相反する国連平和活動上の展開が見られ、概念と現実とのギャップが見受けられるとの仮説が得られた。具体的には、英米ともに未だにブラヒミ報告に見られた和平合意履行型の活動概念に着目しているのに対し、ダルフールやコンゴ東部に見られるように、ここ数ヶ月、国連平和活動は再び不安定な状況に対する、特に文民保護の目的での展開が目立つことである。 3)聞き取り対象国の理解では、国連では国連事務局が発表した2008年ドクトリンの下部ドクトリンとして、現場レベルでの指針作りに焦点が当たっている。そのため、現場レベルの指針をも調査対象としていく必要があることがわかった。一般原則レベルでの見直しは現段階では行われていないが、2)に述べたように、具体的活動と概念とのギャップが生じる可能性があり、懸念材料である。
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今後の研究の推進方策 |
1)米国では平和活動概念の改訂版が発表されているが、その方向性の理論的整理を行う。特に、活動の範囲、原則、主要着眼点(包括的アプローチ、文民の保護、和平合意の履行、国家建設支援)の展開を検討する。英国については、改訂の完成へ向けての動きを引き続き調査し、理論的考察を行う。特に、懸念であった平和支援活動原則の展開について考察する。また、国連に関しては、具体的指針の作成の現状と、現時点での問題意識を調査する。特に、主要関心事項(和平合意の履行、文民の保護、国家建設支援、ROE)の展開について調査する。 2)英米、国連ともに、ここ数ヶ月、特に活発化している不安定な状況への展開(特に、ダルフール、コンゴ東部、マリ)の影響と、概念発展との関係を批判的に調査する。どの程度、各国及び国連の概念やドクトリンは、和平合意の不在あるいは不安定性、紛争の流動性、文民の保護といった新たな側面に対応し得ているか考察する。また、この点に関して、英米といった主要国と国連事務局との認識の違いを考察する。 3)ドクトリンが考察すべきその他の主要な平和活動の主要事例やテーマを絞り出し、調査し、ドクトリン発展のための批判的検討材料とする。新たな教訓分野として、2)に述べたものの他、最近終了した西アフリカの活動(シエラレオネ、リベリア)及び東チモール、さらに、新しい国家を支援する南スーダンなどの事例の教訓が挙げられる。これらはどのように改訂努力に取り込まれているか批判的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)英国、米国(国連を含む)での聞き込み調査の継続(国連関連については開始)に係る出張。 2)国連については、2008年前後の担当者が人事異動のため不在であり、あらたに調査の受け入れのためのフォーカルポイントを見つける必要がある。その他国連概念、訓練の専門家との意見交換の開始(出張、スカイプなどでの意見交換)。これに係る出張、謝礼。 3)学会参加 4)専門家との意見交換(可能であれば、米国から日本へ招聘を検討)
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