研究課題/領域番号 |
24530189
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
高嶺 司 沖縄工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (30442495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
研究初年度(平成24年度)は文献の収集と分析、および先行研究の考察を中心に研究を行った。本研究に関連する文献(邦文・欧文)を収集するため、京都大学東南アジア研究所をはじめ、国内の大学付属図書館や公文書館を訪問した。そうして収集した二次資料を活用して、本研究が使用する5つの理論的アプローチの中から、まず次の2つの理論的アプローチを考察し、本研究独自の理論的枠組みを構築する作業を行った。 (1)Commercial Instrument Approach(商業手段アプローチ) 発展途上国に対する日本の援助活動は、国際社会における商業利益を最大限に拡大することを目的としたものと論ずる。その根拠は、第一に、欧米諸国による援助に比べ、紐付き(タイド)が多かった日本の援助は、日本企業の商業利益と深く結び付いていた。第二に、日本政府は東南アジア諸国への援助を、天然資源の確保や新しい輸出市場の開拓といった目的に利用してきた。したがって、この理論的枠組みによると、日本の対ベトナム援助も、天然資源の確保や輸出市場の開拓を目的としたものということとなる。 (2)Mercantile Realism Approach(重商現実主義アプローチ) 日本の対外経済政策が国際社会における日本の技術的立場と経済的立場を強化することを目的として決定されている、と論じる。重商現実主義アプローチは、経済的安全保障と軍事的安全保障の両方を必要とする国家の行動を、包括的な現実主義理論を用いて再統合したものである。この重商現実主義理論によると、国家の複雑な対外経済政策とは、国際社会におけるその国家の立場を強化するために経済的利益と戦略的利益の中長期的バランスをとったものと説明される。 一次資料に関してはベトナムを2度訪問し実際の日本の対ベトナムODAプロジェクトをいくつか視察した。また、現地の研究者との意見交換もおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している理由としては、まず第一に、初年度に必要な研究資料の収集作業が順調にいったことが挙げられる。その結果として、2つの理論的アプローチを考察し本研究独自の理論的枠組みの構築を試みる作業が、当初の予想よりもはかどったことがあげられる。第二に、ベトナムへの2度のフィールドワーク(現地調査)により国際協力機構(JICA)が現地で実施している実際のODAプロジェクトを視察できたこと、および、プロジェクト関係者との意見交換や有益な情報の収集ができたことが挙げられる。現地調査を通して、日本の開発援助がベトナムの開発、および、経済・社会・環境システムの転換と発展に対し、プラス・マイナス両面でかなりの影響を及ぼしていることが理解できた。また、日本の対ベトナム開発援助の政策目的が両国を取り巻く国内環境や国際環境の変化に、敏感に呼応するかたちで変化してきていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は前年度に引き続き文献と一次資料の収集と分析を行う。また前年度に検討した2つの分析アプローチに引き続き、以下の3つの理論的アプローチの考察を試みる。 (1)Reactive State Approach(反応的国家アプローチ):反応的国家アプローチは、戦後日本の対外経済政策の形成を「反応国家」というコンセプトを用い説明する。特に、このコンセプトは、冷戦構造下における日本政府の対外経済政策を理解するのに役立つ。この「反応的国家アプローチ」の支持者たちは、日本の開発援助政策は主に「外圧への反応」であり、また、国際政治経済環境の中で、アメリカの戦略目標を助けるためのものであると論じる。 (2)Proactive State Approach(積極的国家アプローチ):この「積極的国家アプローチ」によると、国家としての日本は、自らの課題と戦略に基づき、国益を守り、一貫した対外援助政策を作成・遂行する能力を兼ね備えているとのことである。したがって、積極的国家理論の枠組みにおいては、日本の開発援助は刻々と変化する国際戦略環境に反応的にではなく、「積極的に」対応するための政策手段として認識される。 (3)Institutional Analysis Approach(制度分析アプローチ):開発援助(対外援助)を行う目的、および、その背後にある利益をいったい誰(どの機関や組織)が決定するのか、という問いに答えるのが「制度分析アプローチ」である。日本の対外援助政策は、統一した目的と利益をもった1つの政策決定機関(アクター)により決定されているのではなく、それぞれが異なった目的と利益を持つ省庁、族議員、財界といった政策決定アクターによる激しい折衝の産物として決定されていると強調している。 25年度はこうした政策決定アクターへの聞取調査(インタビュー)も行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では357,561円が次年度(平成25年度)に使用する研究費として繰り越しとなっている。平成24年度は国内の図書館や資料館、および、ベトナムでの現地調査を通しての研究資料収集を中心に研究作業をすすめたため、当初図書購入経費として予定していた予算の執行が次年度へ繰り越しとなった。また、予定していた研究用PCの購入も研究上の都合により次年度へ延期となったのも当該研究費が生じた理由である。繰り越しとなった当該研究費は25年度請求経費と合わせ、研究の順調な推進のためすみやかに執行していきたいと思う。
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