研究実績の概要 |
地震の規模が冪法則分布に従うことは、グーテンベルグ・リヒターの法則として知られている。この法則によれば、2011年3月に起きた東日本大震災は100年に1度の頻度で起こると推定される。このように、確率は低いが、起きたときに社会に大きな衝撃を与える事象をテール事象という。ハーバード大学のマーティン・ワイツマン(2009, Review of Economics and Statics)は、冪法則分布のように裾野の厚い確率分布を持つ消費が、最小水準に近づくと限界効用の期待値が無限大となるという「陰鬱定理」を証明した。陰鬱定理は、現在消費と将来消費のうち、将来消費に絶対的なプライオリティを与えることを意味する。最近、この定理の意義を巡って、気候変動の経済学の分野で激しい論争が展開されている。気候変動も地震規模と同様に裾野の厚い確率分布を持つと考えられるので、陰鬱定理を社会的選択理論の枠組みで再検討するのは、十分に意義がある喫緊の課題と判断し、Fleurbaey and Zuber(2014, Princeton University-William S. Dietrich II Economic Center Research Paper No.060-2014)を参考にして、不確実性下の人口倫理学研究を行った。Fleurbaey and Zuberは、Blackorby,Bossert and Donaldson (2007, Scial Choice ane Welfare)の人口可変モデルの枠組みで、リスクを含む社会状態の評価の公理的研究を行っている。申請者は、Bossert and Suzumura (2014)による、推移性を鈴村整合性に緩めて期待効用基準を行った結果を応用して、Fleurbaey and Zuberの功利主義基準の若干の一般化を行った。
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