研究実績の概要 |
これまでのメカニズムデザインの文献においては,メカニズム設計者が完全なコミットメント能力を有し,事前に提示したメカニズムがどのように複雑なものであったとしてもそれにコミットすることができると想定していた.しかし,メカニズムが時間をおって進行する動学的な構造を持つ場合には,情報が次第に明らかになるために,メカニズムの途中の段階で異なるメカニズムに移行するインセンティブが生じるという時間非整合性の問題が生じる.本研究では,この仮定を緩め,メカニズム設計者が不完全なコミットメント能力しか持たない場合の均衡の特徴づけを行い,その厚生含意を明らかにすることを目的とする.一般にコミットメントの無い場合の動学メカニズムは,かなり分析が煩雑となるため,これまでにもあまり多くのことがわかっているとは言えず,その意味で大きな意義があると考える.平成26年度は,Chia-Hui Chen (京都大学, 研究協力者)と共同で,労働者の能力が時間を追って少しずつ明らかになる環境での最適停止問題の考察を行った.この分析では,プロジェクト停止のタイミング(deadline)に関して事前にコミットすることができない場合の均衡に着目し,コミットメント能力の有無による期待利得の差およびdeadlineの役割について理論的な特徴づけを行っている.この研究は,学会や各種の研究会・セミナーでの報告の後,ディスカッションペーパーとして公表しており,現在は国際学術誌に投稿中である.
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