研究課題
本年度は、現実の経済では幾つもの時間遅延が共存する状況を鑑み、複数の時間遅延が動学に及ぼす効果を考察した。従来、時間遅延は不安定効果が強調されるが、複数の時間遅延を含む場合には次の二つの結果 (i)時間遅延は安定効果も持つこと、(ii) 安定効果と不安定効果の優劣により定常点の安定化と不安定化が交互に発現することがモデル分析を通じて新たな知見として得られた。ミクロ経済学の動学モデルとして、独占企業、複占企業、寡占企業の価格よび数量調整過程を取り上げる。まず独占企業は線形の需要関数の傾きと自己の費用関数については完全情報をもつが、最大価格に関しては不確実であると想定する。市場での取引を通じて得られる価格情報をもとに最大価格の推定を行うが、価格情報は一定の時間の遅れを伴って取得できるという条件のもとで、学習過程は遅延微分方程式で記述される。上記(i)と(ii)に加えカオスを含む複雑動学が出現することが数値分析により確かめられる。ついで時間遅延を含むクールノー型複占モデルを構築する。どのように遅延を導入するかに応じていくつものモデルが考えられるが、次の二つのケースを取り上げた。(I)一つの企業は自己の生産および競争企業の生産情報取得に時間遅延をもつが、競争企業は時間遅延を持たないという非対称な複占企業;(II) 二つの企業はともに自己の生産に関して時間遅延をもつが、競争相手の生産に関する情報ラグは存在しない対称的な複占企業。両ケースともに動学は連立の時間遅延微分方程式により記述され、上記(i)と(ii)が示される。マクロ経済学の動学モデルとして古典的な乗数・加速度モデルを取り上げ、投資ラグと消費ラグの存在を仮定して、伝統的な分析の拡張を行う。上記(i)と(ii)に加え、循環解の出現も確かめられる。
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