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2013 年度 実施状況報告書

公共性の総合的規範理論の構築をめざして:経済学、政治学、法学の協同

研究課題

研究課題/領域番号 24530204
研究機関早稲田大学

研究代表者

須賀 晃一  早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (00171116)

研究分担者 若松 良樹  学習院大学, 法務研究科, 教授 (20212318)
キーワード公共性 / 絶滅くじ / 不自由確率 / 生存確率 / カントの定言命法 / 規範原理 / 選択の自由
研究概要

2013年度の研究成果は、次の3つである。
第1は、世代間問題に関する確率論的分析である。地球環境問題などでは、人類の絶滅に関わる事象を各世代はくじによって引き当てると見ることができる。どの世代かによってくじに当たる確率は変化するので、くじを引く順番は大事だといえる。だが、世代は既定の順序でしか生じない。したがって、何らかの政策を選択する第一世代としての我々は後続の世代に対して、特別な責任を有していると結論づけることができる。このことを示すための例として、不自由確率と生存確率(あるいは絶滅確率)を扱った。
第2は、規範的制約を考慮した場合の行動原理に関する分析である。公正な状況へと人々を導く行動原理を示すために、カントの定言命法という枠組みを借りることで、合意された公正な状況へと実際に到達することができる規範原理を考察した。すなわち、カントの定言命法を、多くの人々が従う規範原理とするためにはいかなる条件が必要かを、社会的選択理論の公理的アプローチによって考察した。規範原理が満たすべき行李を変えることで行動の制約が変化し、その制約条件下で選択行動が導くゲームの均衡がどのように変化するかを見ることで、規範原理の有効性を検討した。公理系の設定次第で原理の内容も異なるので、カントの定言命法と整合的な実効性のある規範原理を具体的に探すという作業が次の課題である。ことがわかる。
第3は、公共性と市場に関する分析において、公共性の観点から有効な枠組みを提示した。市場に価格支配力を持つ独占や寡占の弊害は、通常、効率性を基準として語られるが、公共性の観点からも独占や寡占には大きな弊害がある。ここでは、社会的選択理論における選択の自由論を手がかりに、その弊害を説明する理論枠組みを検討した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

[具体的テーマ]である市場システムと公共性の連関については、社会的選択理論の権利論・自由論を援用することで、独占や寡占の弊害を選択の自由の観点から検討した。すでに本研究課題で示してきた完全競争の持つ公共性促進の効果とは対称的な、独占や寡占の弊害が公共性(特に自由)との関係で重要な問題を構成している点を明らかにしたので、第1の目標は実現できた。
第2の[理論的テーマ]における最初の課題「公共哲学の理論史(継続)」では、公共性に関わる哲学的問題を対象としてきた公共哲学の歴史的展開の解明に当たってきた。今年度は特にカントに注目し、彼の提唱した定言命法と行動規範が持つ公共性への含意を始めとして、カントの方法論や社会契約論の現代的意義を検討した。
[理論的テーマ]における2番目の課題については、2つの問いに答えることで、研究を遂行した。公共性の総合的規範理論の構築の中核となる世代間問題を扱う枠組みについては、人類の絶滅に関わる事象や極めて困難な事故を各世代はくじによって引き当てると見て、不自由確率と生存確率(あるいは絶滅確率)を用いた確率論的分析を提案した。もう1つは、規範的制約を考慮した場合の行動原理に関する分析である。公正な状況へと人々を導く行動原理を示すために、カントの定言命法という枠組みを借りることで、合意された公正な状況へと実際に到達することができる規範原理を考察した。
以上のように、大体において当初の予定通りに、またある部分では予想以上に、本研究は順調に進んでいると考えている。

今後の研究の推進方策

26年度も、前年度と同じく具体的テーマと理論的テーマに分け、適切な役割分担の下に資料収集し議論を深める。最終年度に当たるので、研究のまとめと研究成果の発表に時間を割く。
[具体的テーマ]1.「社会保障制度改革」では、次の問題を扱う。社会保障の充実は公共性の実現そのものといってもよい。我々は生まれてから死ぬまでの間にどれだけの社会保障制度に守られているのか、またその制度は十分なのか不十分なのかを検討する。
2.「社会的正義と公共性」では、次の問題を扱う。社会的正義は公共性の1つの柱となるが、正義のような厳格な権利・義務の規定をすべての公共性に要求すべきであるとは思われない。社会的正義と公共性の共通部分から離れたとき、どのような原理が要求されることになるのか。医療・年金・労働などの社会保障の各分野で異なる原理が要求されていることから、応用上重要なテーマでもある。
[理論的テーマ]公共性の総合的規範理論の構築(継続)では、公共哲学の理論史研究から、それぞれの領域で行われてきた研究における公共性の意味と意義を確認し、政策評価原理としての公共性のあり方について議論をまとめる。

次年度の研究費の使用計画

消耗品の購入価格が予定より安価であったために若干のあまり(996円)が生じた。
上記の残額(996円)を消耗品支出に加えて、消耗品の購入を行う。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (4件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] 「社会を選択する」とは2014

    • 著者名/発表者名
      須賀晃一
    • 雑誌名

      経済セミナー

      巻: 677 ページ: 65-69

  • [雑誌論文] 独占の何が悪いのか2014

    • 著者名/発表者名
      若松良樹
    • 雑誌名

      学習院法務研究

      巻: 8 ページ: 1-22

  • [雑誌論文] 最良のガイドブック:伊藤泰『ゲーム理論と法哲学』2013

    • 著者名/発表者名
      若松良樹
    • 雑誌名

      法哲学年報2012

      巻: 2012 ページ: 145-157

  • [学会発表] カント的行動原理の可能性―社会選択論の立場から

    • 著者名/発表者名
      須賀晃一
    • 学会等名
      政治経済学会
    • 発表場所
      早稲田大学
  • [学会発表] 経済学と社会的正義

    • 著者名/発表者名
      須賀晃一
    • 学会等名
      ワークショップ「制度,認識,社会正義,そしてゲーム理論」
    • 発表場所
      早稲田大学
  • [学会発表] Order Matters

    • 著者名/発表者名
      Wakamatsu, Yoshiki
    • 学会等名
      The New Zealand Bioethics Conference
    • 発表場所
      University of Otago
  • [学会発表] 順番が大事

    • 著者名/発表者名
      若松良樹
    • 学会等名
      政治経済学会
    • 発表場所
      早稲田大学
  • [図書] 公共経済学講義:理論から政策へ2014

    • 著者名/発表者名
      須賀晃一編
    • 総ページ数
      402
    • 出版者
      有斐閣
  • [図書] 制度と認識の経済学2013

    • 著者名/発表者名
      船木由喜彦・石川竜一郎編(須賀晃一)
    • 総ページ数
      332 (21-66)
    • 出版者
      NTT出版
  • [図書] ゲーム理論 アプリケーションブック2013

    • 著者名/発表者名
      船木由喜彦・武藤滋夫・中山幹夫編(須賀晃一)
    • 総ページ数
      266 (69-93)
    • 出版者
      東洋経済新報社

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公開日: 2015-05-28  

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