本研究は、長期的関係における経済取引の情報開示のタイミングについての実証的な含意を与える事を目的とする。具体的には、相手の行動を直接観察する事ができないが、その行動に関連する公的に観察可能な情報を受け取る事ができるという環境における長期的関係において、その公的情報を受け取るタイミングが異なるケースを経済実験を行い比較した。その結果として、情報精度が極端に高い場合と極端に低い場合において、情報開示のタイミングが短くなればなるほど経済取引の効率性はあがるという結果を得ている。他方、中程度の場合は、理論が示唆するように、情報開示のタイミングが長くなればなるほど経済取引の効率性はあがるという結果を得た。 こうした結果が起こる要因として、次のような情報開示のタイミングに関するトレードオフ関係が基礎にあると推測される。つまり、情報開示のタイミングが遅れる場合、まとまった形で公的情報を受け取り、結果としてより正確に相手の逸脱行動を推測できるというメリットを享受できるが、他方、相手が実際に逸脱している場合に、その逸脱に対する懲罰行動の発動が遅れるというデメリットを受けてしまう。このようなトレードオフ関係をもとにすると、情報精度が高い場合には、情報をまとめてみることによるメリットが少ないために、その場合の効率性が落ちる。また、情報精度が低い場合は、そもそも公的情報の信頼性が低いがために、蓄積しても信頼性の回復の効果が薄い。それゆえ、やはり効率性が落ちてしまう。一方、情報精度が中程度の場合は公的情報の信頼性がそれなりにあるので、蓄積による信頼性改善効果が大きく、反応のタイミングが遅れるデメリットを補うことが出来る。 以上の実験結果から、情報開示のタイミングと開示情報の性質との関係に応じた情報開示政策に対する含意を得た。
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