今年度は2つの研究を完成させ、それぞれworking paperの形にした。 まず一つ目は、エージェントの能力に関する情報の差が昇進の決定(時期)にどのように影響を与えるのかという研究である。雇用主(プリンシパル)も従業員(エージェント)本人も事前には従業員の能力(生産性)を正確には分からない状況で、雇用期間を通じてそれぞれが学習(信念を更新)していくという状況を考えた。そして社会学や心理学で観察されている自信過剰をモデル化し、同じ情報を観察しても常に従業員本人のほうが雇用主よりも高く自分を評価している場合に、早い昇進か遅い昇進のどちらが良いのかを分析した。その結果、従業員の自信過剰が遅い昇進が最適となるための必要条件であること、情報の精度が高い(学習のスピードが遅い)ほど、遅い昇進が望ましいことを示した。そして完成論文をKindai Working Papers in Economics (No. E-26)に掲載した。この論文は、英文査読誌に投稿中である。 2つ目の研究は、プリンシパルと2人のエージェント間の賃金交渉に関する研究である。 2人のエージェントが共同でプリンシパルと交渉するか、単独で交渉するかをエージェントが選択できるというモデルを考えた。そして、2人のエージェントの代替性や契約の外部性がエージェントが選択する提携交渉にどのように影響を与えるのかを分析した。2人のエージェントが十分に補完的であるかもしくは契約の外部性が正である場合には、共同交渉が任意の割引因子の下で均衡になりえることを証明した。また、2人のエージェントが十分に代替的である場合には、割引因子が0に近い場合に、単独交渉が均衡になることを示した。この論文は、Contract Workshop East (一橋大学)にて研究報告を行い、たくさんの有益なコメントをいただいた。また、SSRN(id 2754439)に掲載した。
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