平成26年度は前年度に整理した2007-2009年の世界的金融危機の特徴を踏まえ、既存理論モデルを拡張し次の結果を得た: 1. 銀行を中心とする金融システムにおける最大の特徴である、預金と同等の契約もとで資金提供する投資家の存在と、当該投資家の効用関数のモデル化:Gorton (2010)による預金者の「リスクに不感応性(risk-insensitivity)」という特徴を、預金先の銀行の経営状態に依存せず一定のリターンを期待すると考え、モデル化することに成功した。 2. 金融ショックに備えた、銀行のバランスシートにおける資産および負債側での流動性確保の問題を明示的に導出:上記の1でモデル化した預金者の利得を前提とした銀行の最大化行動が社会的余剰最大と一致するための最適な流動資産保有割合および自己資本比率の大きさを導出することができた。とくに重要な結果として、既存研究では金融ショックをモデル化する際に、その発生確率のみで特徴づけているが、本研究では発生確率に加えてショックが発生した場合の被害程度をバランスシートの資産側の価値回復のために銀行が負担する費用の大きさで表すことによって、金融ショックをふたつのディメンションで特徴づけることに成功した。それにより、金融ショックの発生確率と被害程度との組み合わせに依存して、銀行の流動資産保有割合と自己資本比率の大きさが変化することを示すことができた。 3. 銀行規制に対する政策的なインプリケーションの導出:銀行による預金契約に対するコミットメントがなく、預金者のリターンが銀行の経営状態に依存する可能性がある場合は、金融ショックの発生確率と被害程度とで与えられる金融ショックの特徴によっては、最低自己資本比率が銀行システムの安定化に大きく寄与することを示した。 以上について3回の研究発表を行い、英文での論文を修正し、再投稿の準備を進めている。
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