研究課題/領域番号 |
24530213
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
久保 誠二郎 東北大学, 経済学研究科(研究院), 博士研究員 (80400216)
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キーワード | マルクス主義 / マルクス主義普及史 / 戦前 / 大正・昭和 / 検閲 / 出版史 / 共産党宣言 / 資本論 |
研究概要 |
25年度は①戦前のマルクス主義文献のリスト化と分析、②マルクス主義文献と検閲との関連の基礎的な調査を中心とした。それぞれ以下の成果を得た。 ①これまで、戦前のマルクス主義文献を幅広く収録する目録は作成されておらず、戦前のマルクス主義の隆盛を把握するための基礎データとすべき目録の作成が必要である。昨年度から引き続き作業を進め、これまでの「マルクス」をキーワードに収集してきた書誌データ(単行本約1200点)に加え、「レーニン」「カウツキー」「ブハーリン」等に広げて収集することにした。まだ未完成であるが、これによりマルクス主義普及の内実・年次的変化を出版状況から詳細に分析することが期待できる。関連して福本イズムの影響がマルクス・エンゲルスの原典翻訳を推し進めた可能性に気づき、原典翻訳の増加との関連を調査した。 ②国立国会図書館が所蔵する検閲正本(内務省へ納本され検閲に使用されたもの)の調査を進めた。検閲下でのマルクス主義の出版とはどのようなものであったのか、その実態はいまだ不明である。検閲正本の調査は、その実態解明の糸口を与える。引き続き国会図書館所蔵の請求記号「特501」資料群に残される検閲官の書き込みの収集・解読を進めた。加えて、米議会図書館に残された検閲正本についての調査を『戦前・戦後検閲資料及び文書(1955年以前)米議会図書館マイクロ化資料チェックリスト』に依って進めた。しかし、これは存在したはずのマルクス主義文献の検閲正本の一部に過ぎず、その行方を探索するという基本的な課題を認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に新たに加えた「検閲」(発行部数、発禁の実効性、検閲官の書き込みの調査)に関する基礎的な知見の獲得に重点を置いて取り組んだため、それ以外の課題の進行はやや遅れている。 1,戦前期の「マルクス主義関連文献」のリスト化の課題では、これまで「マルクス」をキーワードに約1200点の単行本のリスト化を終えており、研究目的に即した一定の成果を得てはいる。しかし、さらに拡充を図るため「カウツキー」「レーニン」などのキーワードから更に探索を進めることとした。このようにリストの豊富化を企図したため、国外所蔵分の調査はほとんど実施できなかった。リストの網羅性を追求するための課題が増えた意味で「マルクス主義関連文献」(リスト化)の完成がやや遅れている。 2,啓蒙書の分析の課題では、マルクス主義ないしマルクス経済学の普及において、影響をもった文献を既に絞り込んでいる(24年度研究実施状況報告書)一方で、内容の精査、比較については遅れている。これは上記「検閲」に関する調査研究に重点をおいたためである。 以上のように、研究目的に沿って研究そのものは進展しているものの、新たな課題(検閲)、拡充すべき課題(リスト化)に取り組んだため、研究計画の進行がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
26年度(最終年度)は、遅れた課題に取り組むことを予定する。次の課題に重点的に取り組む。最も作業量が多大なのは「マルクス主義関連文献」である。ただし作業課題は明確であり、作業従事者についても目途がついている。ただし、本科研費では国外所蔵分は除外する。国内所蔵分について網羅的に収集し、出版の年次的変化、マルクス以外のマルクス主義者(カウツキーやレーニン、スターリン等)の文献の翻訳状況などが判明するような、研究に有用な文献リストとして完成したい。これは年度前半に取り組む。後半は資料収集をほぼ終えた課題であるマルクス主義の啓蒙的文献の分析に取り組む。また、検閲に関する調査は継続するものの、26年度は上記の遅れている課題の達成に重点をおくこととする。 以上により、研究目的全体の達成を果たしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画的な支出をしてきたが、わずかに残額が生じたものである。 次年度の書籍代として使用する。
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