研究課題/領域番号 |
24530215
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 聡 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (80323905)
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キーワード | 厚生経済学 / 必要 / ナショナル・ミニマム / 分配 / 功利主義 / 福祉 |
研究概要 |
本研究は,A.C.ピグーが構想した倫理・道徳哲学の内在的な研究およびその厚生経済学との関連の考察を目的としている.拙著(『ピグーの倫理思想と厚生経済学』)は,この点を正面から扱い,ピグーにおいても確固とした倫理学的知見の基盤があることを主張した.同著で説かれたピグーの道徳哲学の重層的理解という観点から,本研究ではさらに考察を推し進め,従来のピグー研究では明らかにされてこなかった重要な論点(必要充足原理とそれに基づく分配規準)を掘り下げる.そのことを通じて,ピグーの厚生経済思想を再検証し,彼の経済学の基盤である思想の豊饒性を描きだす.これは,今年度の業績(拙稿「ピグーの道徳哲学と厚生経済学」西沢保・小峯敦編『創設期の厚生経済学と福祉国家』)で行われた. 上記の論点に加え,本年度では,ピグー研究動向のサーヴェイ論文(「ピグーの厚生経済学と論争点に関する考察」『高知大学学術研究報告』)を執筆した.同論文の眼目は以下のとおりである.ピグーは,厚生経済学の創始者であり,その大家にして20世紀における最も優れた経済学者の一人に数えられている.だが,その反面,彼の経済学説史における立ち位置には微妙なものがある.巨人アルフレッド・マーシャルの忠実な後継者という側面,およびケインズとの論争の敗北者という側面が過度に強調されることでピグーは埋没したように取られる風潮がある.最大の原因は,論評者の取る観点,すなわち,これまではどちらかといえば,ピグー外在的な観点からの学史研究が圧倒的に多く,ピグー内在的な観点つまりピグー本人が意図(あるいは暗黙裡・潜在的に意図しようと)したことは何であるかという観点から彼を追究しようとした試みが非常に少なかったことに存する.ピグーの真価は未だ十分に評価されていない.本稿では,こうしたピグー研究の現状と今後の可能性について,極めて限定的ではあるが,展望を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度において,「The Development of Welfare Economics: Orthodox History after Pigou, and Recent Studies」,「ピグーの厚生経済学と論争点に関する考察」,「ブレンターノの調査と優生学」,「ピグーの道徳哲学と厚生経済学」の論文を執筆・刊行することができた.当該年度の研究計画の「必要と分配」の論点に加え,研究動向のサーヴェイ,優生思想研究の着手を行うなど,当初の年度計画を質,量ともに上回る業績を残すことができたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
個人ベースの研究活動に加え,ピグーを含むケンブリッジの経済思想を再考証しようとする経済学史研究者とのネットワークも活用してゆく.一橋大学経済研究所で行われる科研の研究プロジェクトに研究協力者として(昨年から引き続いて)参加する.また,平成26年8月には,国際功利主義学会(ISUS2014)が横浜で開かれる予定で,研究報告することが決まっている.今年度は,ピグーの厚生経済思想における優生学に焦点を当てて研究を進めることを計画している.経済思想と優生学の問題は,経済学史研究において研究蓄積が手薄であることから,注目に値するテーマである. その他,必要に応じて,資料収集を国内外で行う予定である.
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