研究課題/領域番号 |
24530220
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
小峯 敦 龍谷大学, 経済学部, 教授 (00262387)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / イギリス |
研究概要 |
本研究の究極的な目的は、ケインズやベヴァリッジの経済思想を思量しながら、「公共目的と経済的効率性を両立させる体制(半自治組織)の条件」を考究することにある。「福祉国家の合意」「資本主義の黄金時代」という思想はどこから始まり、いつ終わり、そして現代にも意味があるのだろうか。これが申請者の根源的な問題意識である。 平成24年度は上記の究極的な目的に基づき、具体的には次のような研究を実施した。まず、ケンブリッジ大学中央図書館・手稿室にある常任評議会や経済学部の議事録(基本は書記による自筆、時にタイプ文書の添付あり)である。この議事録は大学におけるケインズ等の活動や思想を探る第一級の未公開資料だが、現在までほとんど注目されていない。さらに2010年代は閲覧のみ許可されてきたが、2011年度から一部デジタル撮影が可能という大幅な変更が行われた。2011年8月の渡英時にかろうじて一部分をデジタル撮影したが、まだ大量に未撮影の資料が残っている。平成24年2月に渡英を果たし、ケンブリッジ大学の上記図書館において、デジタル撮影を行った。その際、1940年代の議事録撮影については、現存する人物も存在するため、特別に司書主任の許可が必要なことが判明した。 次にTNA(The National Archives)に同時期に赴き、戦間期の経済政策形成において経済思想の果たした役割を探るために、CAB 66などの分類番号を始め、多くの資料をデジタル撮影で収めることができた。 この2つの資料収集が今後の研究において、基本となるデータである。本年は欧州経済思想史学会と経済学史学会の共同国際会議がコルシカ島で開催され、そこでケインズの半自治組織に関する発表も行い、活発な質疑応答のうえ、専門的知見の交換に努めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画はまず、デジタル撮影を行うことであった。2月までに渡英を果たし、またヨーロッパの国際会議で9月に発表できたこともあり、まずは順調に進展していると見なして良い。
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今後の研究の推進方策 |
中間年度は女性学位の問題を残しつつ、経済学における卒業優等試験Triposの変遷について、詳しく探究する。マーシャルがこれを1903年に確立した経緯については、橋本(1989)や西沢(2007)に詳しいが、その後の1910年代~20年代の改変については、意外なほどに研究が進んでいなかった。実はここにケインズが関与している。 ケインズはカレッジおよび経済学の特別委員会で実務能力を発揮しながら、経済学コースの完成に向けて様々な改革を実施した。予備的考察において、それは歴史学・法学・政治学の比重低下、金融・財政・国際経済などの専門性の重視であると判明している。しかし具体的な詳細については今後の課題となっていた。本年度およびその次の年度はこの部分が中心となる。 ケインズによる専門性の方向性が「経済学=モラルサイエンス」(良き社会という規範的考察)という伝統とどれほど齟齬を来たし、さらに第二次世界大戦後にアメリカで進んだ経済学の標準化とどれほど異なるのかを、この年度で確定したい。 分析方法は『ケンブリッジ大学・大学学報』The Cambridge University Reporterや雑誌Cambridge Reviewなどをデジタル処理し、ケンブリッジ大学中央図書館にある試験問題やカリキュラム表などを合わせながら、「経済学の制度化」(専門科目としての確立)がどのような形で進んだかを明瞭な形で提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(海外への旅費)アメリカ経済学史学会HESへの出張(バンクーバー)、イギリス経済学史学会への出張(ロンドン)。 (国内旅費)経済学史学会の全国大会(関西大学)および関西部会・東北部会・関東部会。社会思想史学会の全国大会(明治大学)。 (パソコン)メインマシンの入れ替え。
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