研究課題/領域番号 |
24530221
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
森岡 邦泰 大阪商業大学, 経済学部, 准教授 (90268293)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 海保青陵 |
研究概要 |
海保青陵の言説は、すぐれたイデオロギー論として読むことができる。管見する限り、同時代の思想家で、否、後の明治時代になっても、これほど明確なイデオロギー論を展開した日本の思想家はいないと思われる。海保青陵の経済思想史研究において、これまでこうした点に着目したものはなかった。 さて青陵のイデオロギー論は、イデオロギーの暴露と統治技法としてのイデオロギーの利用の二面がある。ここではイデオロギーとは諸個人を、いわばひとりでに行為させるものだとしよう。青陵は、人は習慣に左右されるものだから、民衆の生活態度は為政者の操り次第だという。その結果民衆は「ウツカリ」と「知ラズ」に、すり込まれた行動を自発的にとってしまう。さらに「目」という認識能力が、一定の箇所に固定化され、他の方向へ転ずることができなくなってしまう。こうして一方向のみの認識が可能となり、他の方向への認識的障害が形成されることによって、イデオロギーは完成される。習慣が認識能力へ及ぼす作用をイデオロギーとして把握している点が、青陵のイデオロギー論の特徴であろう。この理論を青陵は経済政策にも生かすのである。 海保青陵や本多利明の経済思想はこれまで重商主義といわれてきたが、重商主義とは西洋経済思想の概念であり、どこまで日本に適用可能かという問題が常につきまとっている。重商主義論の議論の一つにスミスの国富論のものがあるが、そのスミスなどスコットランドの思想家に影響を与えた思想家の一人がプーフェンドルフである。そこで2012年度は、2011年度社会思想史学会・第36回大会で「文明社会史観の誕生をめぐって――プーフェンドルフの二重性――」と題した学会発表に基づき、プーフェンドルフの『義務論』の翻訳にも従事していたが、これは近々出版物の形で世に問うことができよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海保青陵の言説の分析は、おおむね順調に進んでいるが、西洋経済思想との関係で、プーフェンドルフの『義務論』の翻訳を行っており、これに多大な時間と労力がかかっているのが、他の面への研究に取りかかるのを妨げている。しかしこれを出版物として世に問うことができるようになれば、本研究課題だけにとどまらず、わが国の学界への貢献は法制史、経済思想史、哲学史などいろいろな分野で非常に大きい。 研究計画に記した科学史、数学史の知見の獲得に関しては、ほぼ順調に進んでいるといえよう。図らずも経済学史学会で、この方面に関連する研究報告の討論者を引き受けることとなった。 もう一つ研究計画に記した文献・資料の収集については、鋭意行っており、必要なものは次第に蓄積しつつあるが、まだ必要な文献・資料は見つかるので、今後も進めていく必要がある。 またやはり研究計画に記した関連学会や研究会での知見の獲得については、社会思想史学会第37回大会で「自由主義思想の射程」というセッションを企画し獲得に努めた。そこでは、フィジオクラットたちがモンテスキューをいかに読んだかという問題設定から、彼らの「新しい科学(nouvelle science)」が帯びていた政治思想的特質を明らかにする安藤裕介報告と1710年代から20年代にかけてのデフォー(Daniel Defoe, c.1660-1731)の言説を同時代史料として活用しながら,著名な「南海泡沫事件」の前後におけるブリテン公信用論の一展開に注目した林直樹報告を用意した。さらに関西学院大学で行われた経済学史研究会では「プーフェンドルフのフランス啓蒙思想への影響」と題する研究報告を行い、この方面では順調に進んでいるといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画にも記してあるとおり、まず必要な資料と文献の収集に努める。特に本多利明の資料は、日本各地に散らばっているので、その収集にはかなりの時間と経費が見込まれる。そこでこの分野の研究者と連携して、収集を効率的に進める。この分野の研究者は日本経済思想史学会にいるので、学会のつながりを活用して収集の能率化を図る。また必要に応じて専門家を招き、研究会を開いて、専門的知見の提供を受ける。 また研究計画書にあるとおり、特に、可能ならば海外の研究者を招聘して、セミナーを開催して専門的知識の提供を受け、またそれを通してわが国の学界へも専門知識の提供を行うことにより、学界の知見向上に貢献する。 関連学会を通しての知見の獲得については、今年度の社会思想史学会で「自由主義思想の射程」と題するセッションを企画し、その実現に努める。現在のところ、功利主義を中心としたセッションを組める予定である。報告予定者は川名雄一郎氏をはじめとする3名で、ミルとベンサムについての議論になる予定である。ただまだ正式にエントリーしたわけではないので(現時点で申し込み締め切り前)、変更の可能性はある。 加えて、プーフェンドルフの翻訳を鋭意進める一方、プーフェンドルフと啓蒙思想の関係について論考を用意しており、今年度中に発表を目指している。それはプーフェンドルフの道徳的存在と物理的存在の議論を鍵にフランス思想への影響を論ずる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、25年度に海外の研究者招聘を見込んで、その費用をまかなえるよう予算の使用に留意した。招聘のための経費が予算のかなりの部分を占める可能性があるからである。従って、先方の研究者のスケジュール上、招聘が可能ならば、25年度は招聘費用が予算のかなりの部分を占めることになろう。もし招聘できれば、セミナーを関西と東京の少なくとも2回は開きたいと考えている。そのため渡航費用以外に、国内旅費も見込まれる。東京のセミナーに関しては、東京在住の研究者に会場の設営を依頼する予定であるが、想定している大学では、おそらく会場使用費用はかからないと思われる。しかし先方のスケジュールの都合で、別の場所になった場合、最近の大学では会場使用料を取るところがあるので、その経費がかかる可能性がある。 また予算のある限り、必要な資料と文献の収集に努める。特に各地に散在している資料に関しては、出張して収集する必要があり、出張費用を見込んでいる。 さらに集めた資料を電子文書化するために、25年度はスキャナーとOCRソフトを購入する。
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