本多利明の開業思想について研究を行った。植民という言葉は、オランダ語からの翻訳語であり、当時の日本にそういう思想はなかったことを示している。利明は、それを開業としてとらえた。つまり、植民というよりは、荒蕪地、、未開拓地の開拓なのである。念頭においていたのは、主に北方で、北海道、カムチャッカ半島である。 利明の開業思想の際立った特徴は、それを文明化作用ととらえていることである。未開拓地に原始的な原住民がいるかもしれない。しかし、よりよい生活をもたらす文明の利器を提供することによって自発的に同化していくというのである。エリアスのような文明化の作用に着目しているのが、同時代人と比較して利明の思想の特徴である。それはやはりキリスト教に基づいた、同時代のヨーロッパの植民思想と比較しても興味深い。 さらに利明は、西洋はこうした文明化作用に基づく撫育策で、領土を拡大してきたが、支那は武力による侵略によった。そのため武力に対しては、同種の手段、つまり武力を喚起するので、戦争を引き起こしてきたとする。これは、ホッブズを想起させる議論であるが、このように西洋と支那を対比的にとらえている。この西洋の理想化は、従来その根拠が明らかにされることはなかった。そこで、鎖国下で当時の知識人が入手できる資料で、どれほど可能かを検証した。 海保青陵について、経済主体の創出という観点から、そのイデオロギー論を検討した。青陵は儒者でありながら、驚くほど儒教イデオロギーに無縁であり、実利主義的な経済論を唱え、何よりもそうしたイデオロギーから解放された経済主体の創出を説いたことを明らかにした。 上述のような西洋思想との比較のため、同時代の西洋の啓蒙思想の研究もあわせて行った。
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