研究課題/領域番号 |
24530224
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
田中 勝人 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40126595)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 確率過程 / O-U 過程 / フラクショナル・Brown 運動 / 数値積分 / 最尤推定量 |
研究概要 |
連続時間モデルとして提案されているいくつかのモデルの統計的性質の検討を行った.特に,長期記憶性を考慮したモデルかどうかの観点から検討した.その結果,長期記憶性を描写するためにふさわしいモデルとして,fO-Uモデルを第一の候補として取り上げた. また,この分野における研究状況を把握するために,主要な論文や著書も参考にして,批判的に検討して,fO-U過程に関連する確率論的な考察を行った.さらに,海外の研究協力者と情報交換を行い,直接に会って議論する機会を得た.2012年8月には,カンザス大学数学科の Y. Hu 教授や D. Nualart 教授に会って,セミナーを開き,意見交換をした.2013年 3 月には,オーストラリア国立大学統計学科の B. Buchmann 講師,R. Maller 教授に会い,セミナーおよび意見交換をした. 実際に行った研究では,fO-U過程に含まれるドリフト・パラメータαが負の場合の推定問題を考察した.そして,Hustパラメータが1/2 より大きい場合のLSEについて,その統計的性質を調べた.特殊な場合として,通常のO-U過程におけるLSEと比較して,相互の違いや共通性などを把握した.また,他の推定量として,MLEやMCE(最小コントラスト推定量)についても調べ,これらの分布関数や密度関数を数値積分により計算して,分位点を求め,グラフ表示した.以上の研究内容を,論文としてまとめることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,研究発表の場所として,より大きな学会を予定していたが,実際には,訪問先の大学におけるセミナーが主たる所となった.大きな学会では発表時間が短いことを考えると,一年目ということもあり,大学におけるセミナーの方が,じっくりと議論できたので,むしろよかったと考えている.研究内容については,計画通りのことがほぼ達成されたと思う.ただし,研究成果の公表に関しては,査読付きの世界的な学術誌に掲載されるまでにはタイム・ラグがあるので,近い将来のこととしたい.
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今後の研究の推進方策 |
Hurst パラメータが1/2 より大きい場合を引き続き考察する中で,タイム・スパンM が大きくなるときの推定量の漸近的な性質(収束のオーダーや極限分布など)をより深く考察する.特に,ドリフト・パラメータ α が負となる場合の漸近理論が未解決であるので,その場合の理論を構築したい.また,ドリフト・パラメータαに関する仮説検定,特に,帰無仮説がα=0の場合を扱う.この問題は,誤差項がfBmに従う場合の単位根問題として解釈できる.検定統計量としては,LSE, MLE, MCEなどに基づくものが考えられるが,これらに基づく検定と検出力の関係を調べる. また,パラメータαの推定量の振る舞いを,シミュレーション実験により調べる.その際,離散化の手続きが必要であるが,そのためにはさまざまな方法が提案されており,相互の違いに注意して,実験を進める. Hurst パラメータが1/2より小さな場合は,その増分が長期記憶性をもたないので,金融時系列の分析には,特に必要ない.また,取り扱いも複雑である。しかし,数学的には解決しなければならない問題であるので,1/2より大きい場合との違いを見出しつつ,推定や検定の問題に取り組む.
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた国内の研究集会へ参加できなかったことにより,平成24年度に未使用額が生じた.8月には,私の研究分野でめざましい成果を挙げているフィンランドの3名の研究者と意見交換するためにヘルシンキに行く予定である.また,研究遂行上,パソコンも必要である.平成24年度の未使用額と平成25年度に請求する研究費は,これらに充当したい.
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