研究課題/領域番号 |
24530230
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐伯 親良 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70136589)
|
研究分担者 |
ホセイン モハメド シャリフ 九州大学, 国際教育センター, 准教授 (30588596)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 所得分布関数 / 一般化モーメント法 / MaxEnt / 最尤推定法 / 判断項目 / Dynamic Factor / 景気指標 / 一般化ベータ分布 |
研究概要 |
本研究は,1990年代,2010年代の20年間を通じての経済変動がどのようなものであったかを明らかにし,これが個人間所得分布にどのような影響を及ぼしてきたかを分析することである.このことを踏まえて,本年度では基礎的データの整備を進めた.具体的には「賃金センサス」の年齢階級別データ,「家計調査」の所得,賃金に関するデータの整備,また,「消費動向調査」,「日銀短観」の景気判断項目に関するデータの整備を行った.また,分析を進める上で必要となる所得分布関数の推定,集中度係数の推定に関する方法について最新の推定方法を考察した.これについては,「最近の所得分布関数の推定」経済学研究,第79巻,第5-6合併号,2013年3月に発表した.ここでは,本研究で取り扱うグループ化されたデータにおける所得分布関数の推定に最尤推定法,一般化モーメント法,MAXENT法について理論的な考察と実際の推定について考察している.実際の推定は,MatLabによる開発を進めている. 蓄積したデータベースの一部についてはこれらの方法を用いて分布関数の推定,集中度係数(ジニ係数,タイル係数等)を進めている.これらの推定方法に関しては中国の上海交通大学,上海理工大学においても報告を行った('A Recent Studies of Estimating Income Distribution Function').他方,景気動向に関する分析に関しては,あらためて,Dynamic Factor モデルとMarkov Switchinng モデルについてMatLab による開発を進め,蓄積した消費動向調査と日銀短観の判断項目をこれらに組み込むモデル化に着手したところである.中国のサーベイデータの利用可能性についても調査を進めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)24年度の研究計画では,本研究を進める上で基礎となる賃金センサスが提供している階層別データ(学歴ごとの所得階層別データ),所得分布,支出分布に関しては「家計調査」の年次データをもとに(謝金によりデータ入力を行い)データベースの構築を進めることを計画しており,これについてはほぼ完了している. (2)階層別データに基づく分布関数の推定方法を研究することを計画しているが,これについては最近の推定方法について,エントロピー法,GMM,ML法を探索した.これに基づき,MatLab による推定を進めるためプログラミングを進めた.一般化ベータ分布(第2種)を中心に進めたが,最適化問題に関して初期値の設定に依存して,収束いない場合も存在するので一部修正する箇所も残されてはいる.ただ,今後の研究を進める上では支障はないと判断する. (3)本年の研究成果については,本研究を進める上で行ったワークショップ,九州経済学会(2012年11月),上海交通大学(中国),上海理工大学(中国)で報告を行うと同時に,「経済学研究」に投稿した. (4)開発した分布関数推定プログラムを利用して,データベース化した「賃金センサス」,「家計調査」の階層別データをもとに1990年ー2010年の集中度係数を推定することが残されてはいるが,分析ツールの開発も進んでいるので,これらの推計作業も早期に完了できるものと考えている. (5)新しい景気指標の推定については,次年度に本格的に進める予定であるが,最近の Dynamic Factor モデルなどについて,MatLab を利用してその有効性について再確認作業を指定いるところであり,ほぼ順調に研究を進めていると判断している.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の2年度目としては,1990年から2010年にかけての所得分布,賃金分布の動向を詳細に分析する.既に,前年度に分析に必要なデータベースの基本的な作成と分析ツールについては基本的な開発を終えているのでこれらを利用するものとする.同時に,分析ツールの更なる開発を進める.具体的には,「賃金センサス」の年齢階層別分布を推定した上で,集中度係数を導出し時系列的変化を分析する.また,記述的に景気変動との関連を分析する.「賃金センサス」は教育水準,男女に関する賃金分布の情報も提供しているので,これらについても同様の分析を進め,景気変動との関係を明らかにする.支出分布,所得分布の動的な変化を分析するために,開発した分析ツールを用いて賃金分布と同様な分析を進める. 中国の所得分布の変動についても開発したツールを用いて分布関数の推定を進め,集中度係数の動向を分析する.1990年以降の高い経済成長率の下で,所得分布がどのように変化してきているかを検討する. 実際に景気変動をみるための指標として本研究は,景気に対する意識データ,サーベイデータを利用することに焦点を当てることとしているので,Dynamic Factor モデルの拡張を行う.前年に引き続き,Dynamic Factor モデルの2010年までの有効性を確認し,サーベイデータを組み込んだ拡張モデルの開発を進める.既に,判断項目については「短観」と「消費動向調査」の基本的なデータを蓄積しているのでこれらを利用しておこなう.はじめに,短観の情報を基に現行の景気動向指数で利用されてきている各時系列データを組み合わせた形で分析を進め,新たな景気指標を作成する.また,消費と景気動向は密接に関連していることから消費動向調査の各判断項目を組み込んだモデルの推定,得られる新たな景気指標の有効性について比較検討を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行する上での経費との関連については次のようです. (1)本研究では,MatLab などのツールを用いて所得分布関数の推定をおこない,また,「短観」などの景気判断項目を用いた Dynamic Factor モデルの拡張版を推定することを行っている.実際の推定は PC を利用して進めているが,最適化問題を解く上で,MatLab は長い時間を要する.より高速な演算を進める上で,並列処理計算をすることが望まれるが,Tesla または,Quadro GPU を利用することで,MatLab のアクセラレーションが可能となる.これを導入する費用として物品費を計上している. (2)本研究では所得分布関数の推定に関して,グループ化された情報の下で,より効率性の高い推定方法を検討し,これを1990年以降の日本の賃金,所得分布の変動に適用し,この間の日本の景気変動の下でどのような影響が生じたかを分析するものであり,これらの実証分析の結果をできるだけ広く報告することに意味があると考える.ここでは,国内外の学会,ワークショップ(ベルギー,オーストラリアなど)で報告することを意図している.また,本研究では高い経済成長下での中国の所得分布の変動に関して,ここで開発した分布関数の推定方法を利用して推定することを意図しているが,利用可能なデータの入手,また,分析結果の討議などのために中国,上海交通大学の朱保華教授を交えたワークショップの開催を予定しており,これらのための旅費を計上している.また,ワークショップに伴う経費やソフトウエアーの更新費としてその他の経費を計上している. (3)必要とする基本的データの蓄積は行ってきているが,新たに追加されるデータ,「家計調査」の一部についてはまだ,残されている部分もあり PC 上でのデータ入力が必要となっている.これを遂行する上で謝金の計上を行っている.
|