研究課題/領域番号 |
24530241
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大東 一郎 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (30245625)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 貧困削減 / 再生可能資源 / 発展途上国 / 経済動学 |
研究実績の概要 |
都市失業のある発展途上国のハリス・トダロ二重経済モデルを、農村生産に再生可能資源が利用されると想定して拡張した新たなモデルの分析を進めた。分析の焦点は、都市失業率が低下しかつ再生資源ストックが増大というする形で「貧困削減と環境保全の両立可能性」が達成されうるかを検討することに置いている。 (1)自給自足経済と小国開放経済とでは、定常均衡の存在や安定性、移行動学経路の性質が異なることが判明してきた。自給自足経済では再生可能制限ストックが消滅することがありうるのに対して、小国開放経済では資源ストックの消滅は起きないことが判明した。
(2)都市工業が十分に大きくなった途上国では、制度的に固定されていた都市賃金率が労働需要の増大により伸縮的に変化するようになるであろう。そのケースのモデル分析も行っている。定常均衡の存在や性質を考察するため、共同研究者の樽井礼ハワイ大学准教授が数値シミュレーションを行い、モデルの性質が具体的に解明されつつある。
(3)再生可能資源の所有権制度と国際貿易との関係を論じた文献の調査も行ってきた。その成果の一部を、岩波書店『環境政策の新地平』シリーズ第1巻所収の展望論文に含める形で公刊する(2015年5月8日予定)。また、発展途上国では再生可能資源の所有権は確立されていないと想定する方が現実妥当性が高いという判断を固めるに至り、所有権制度を内生化する方向でのモデル分析は行わないことにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現実の発展途上国では再生可能資源が今でもオープンアクセスの状態にあることが多いという認識を深めたため、昨年まで考えていた私的所有権制度が内生的に確立されることを説明する方向へのモデルの拡張は行わないことにした。だが、他方、定常均衡点の存在、一意性、安定性を精確に明らかにする分析は、共同研究者による数値シミュレーションの助けもあって大きく前進した。また、工業化がより進展し都市賃金率が労働需給を反映して伸縮的に変動する設定のモデルも分析しており、分析内容は拡充されてきている。当初の方針は修正したものの、分析的に解明できることは具体的に明瞭になってきており、新たな発見も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、自給自足経済モデル、小国開放経済モデルのそれぞれについて、都市賃金率が制度的に固定され失業が存在するケースとそれが伸縮的に調整される完全雇用のケースで、都市失業率と再生可能制限との相互作用の性質について、精確に分析を続ける。
第2に、これらのモデルではCES型工業生産関数を用いた数値シミュレーションも有用であることが判明したので、その分析結果にも経済学的説明を与える。
第3に、本研究の結果を先行研究と関連づけたり、World Development Indicators等の現実のデータと比較したりして、研究論文としてのストーリーを構成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者との討議のために2015年3月に計画していたハワイ大学への研究出張が中止となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
ハワイ大学の共同研究者との討議をはじめ、国内外への研究出張に充当する計画である。
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