研究課題/領域番号 |
24530259
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
澤野 孝一朗 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80336354)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 子ども / 医療サービス / 窓口負担 / 小児科医数 / 母親の就労 / 無料化 |
研究概要 |
本研究では、地方自治体が独自に実施する政策である子ども医療費の無料化と公立病院の設置・運営に関する理論的・実証的分析を行う。平成24年度の研究では、子ども医療費の無料化に注目して、その実施(公費補助)が家計負担に与える影響を計測する。この分析では、地方自治体が実施した子ども医療費の無料化が、家計に何をいくらだけ、どのように配分したかを明らかにすることができる。 平成24年度は、子ども医療と無料化に関するサーベイを行い、東京都の義務教育就学児医療費助成制度を分析対象として、家計負担に与える影響を計測した。子ども医療と無料化に関するサーベイは論文を作成し、公刊した。 本サーベイ論文の主要な結論は、次の3点である。(1)子どもの医療サービスは,子どもの病気の特徴,生産と消費の同時性という医療サービスが持つ局地性、親と子という意思決定者と需要者の相違が特徴としてあり、この特徴を織り込んだモデル分析から価格(窓口負担)の上昇、地域の小児科医数の減少、機会費用を引き上げるような就労構造の変化はすべて家計の経済厚生を引き下げる。(2)地方自治体による子ども医療費の無料化は、家計の子育てコストを引き下げることを目的に実施されている。その対象は、東京都の対象年齢引き上げを契機に、近年では対象が中学生の入院・外来まで拡大されるようになっている。(3)子ども医療費の無料化の実施は、子どもの医療サービス需要を増加させる効果が予想される。これまで行われた実証研究の結果から、乳幼児(0歳から6歳)の外来医療サービスはその効果が確認されるが、小学生(7歳から12歳)については明確ではない。またその効果は、非常に小さい規模である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では、地方自治体が独自に行う子ども医療費の無料化と家計負担の関係について、先行研究のサーベイを行い、その効果を理論的・実証的に明らかにすることが当初の計画であり、おおむね順調に進展している。 平成24年度では、子ども医療と無料化に関するサーベイを行い、論文「子どもの医療サービスと地方自治体による子ども医療費の無料化に関する研究サーベイ」を公刊した。子どもの外来医療サービスと無料化に関する分析を行った論文「子ども医療費の無料化と家計負担-東京都の義務教育就学児医療費助成制度が与えた影響について-」の解析は終了し、学会やセミナーでの討論を踏まえ、論文原稿を作成した。子どもの入院医療サービスと無料化に関する分析を行った論文「家計調査の入院料と子ども医療費の無料化」は学会で報告を行った。 論文「子ども医療費の無料化と家計負担-東京都の義務教育就学児医療費助成制度が与えた影響について-」では、家計の医療サービス需要関数を用いて、地方自治体による子ども医療費への公的助成の実施が、外来医療サービスと一般用医薬品に与えた影響を分析する。分析対象とした制度は、東京都の義務教育就学児医療費助成制度(マル子)である。この制度は、東京都内の小中学生を対象とし、2007年10月に導入されたものである。分析に用いたデータは、東京都『生計分析調査報告』の医科診療代と医薬品代である。 本稿の分析から得られた結果を要約すると、次のとおりである。(1) その実施は、家計の医科診療代を9.14%だけ減少させる。年間で子ども1人あたり3,744円である。(2) 同じく家計の医薬品代を3.26%だけ減少させる。年間で子ども1人あたり696円である。(3) 効果が最も大きい世帯は、世帯主年齢「35~39歳」である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画は、次のとおりである。平成24年度の研究では、地方自治体が独自に行う子ども医療費の無料化と家計負担の関係について、先行研究のサーベイを行い、その効果を理論的・実証的に明らかにする。平成25年度以降の研究では、地方自治体が設置・運営する公立病院を分析対象とし、その役割と目的関数に関する理論的・実証的研究を取りまとめる。その先行研究のサーベイを踏まえ、ニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる公立病院改革の効果と成果について明らかにする。 今後の研究は、子ども医療費の無料化と家計負担に関する論文の投稿を行い、その公刊を行う。入院医療サービスや歯科医療サービス、討論等によって指摘を頂いた点についての追加的分析を行い、公的統計のミクロデータが利用可能な場合には、その利用申請を行い、それを用いた解析を行う。 また同時に当初計画どおり、公立病院の役割と目的関数に関する理論的・実証的研究に着手する。平成25年度以降に予定される計画は、次のとおりである。現在、公立病院は深刻な財政問題を抱えており、総務省は『公立病院改革ガイドライン』により指定管理者制度、地方独立行政法人化、PFI活用による整備・運用、民営化等のニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる改革手法を推奨し、改善を目指している。このように重要な経済問題である公立病院改革であるが、先行研究に関する詳細なサーベイとその評価が行われていない。本研究では、サーベイによる評価を実施する。その後、ニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる改革手法の活用は公立病院にどのような変化を与えたのか、もしくはどのような特徴を持つ公立病院がそれらの改革手法を採用したのかを事例や経営指標を利用して分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画は、次のとおりである。本研究課題に関する研究の実施に関して、効率的な実施を心がけ、なるべく費用の節約に努力することを誓約する。現段階の準備状況において、当面に必要となる基礎資料の収集は完了し、分析に利用するデータベースはすでに構築済みである。今後に必要となる研究設備や資料等は、分析に必要となるパーソナルコンピューターと統計処理ソフトの購入、学会やセミナー等で発表するための旅費とその他消耗品のみを予定している。物品等の購入はなるべく差し控えることとする。 平成24年度では、サーベイの検討、モデルの構築、データの解析およびその討論を優先的に行った。平成24年度では、不要不急な経費を節約したため、次年度使用額(246,483円)が生じたが、平成25年度の交付請求額400,000円との合算した研究費(646,483円)で、効率的・効果的な研究を進める。それ以外の執行計画は、当初計画どおりを予定している。
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