研究課題/領域番号 |
24530259
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
澤野 孝一朗 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80336354)
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キーワード | 公立病院 / 搬送体制 / 医療サービス / 人口過疎地域 / 災害医療 / 沖縄県 / 伊勢湾台風 / 自衛隊・海上保安庁 |
研究概要 |
本研究では、地方自治体が独自に実施する政策である子ども医療費の無料化と公立病院の設置・運営に関する理論的・実証的分析を行う。平成25年度の研究では、地方自治体が設置・運営する公立病院を分析対象とし、その役割と目的関数に関する理論的・実証的研究をとりまとめる。この分析では、地方自治体が設置・運営する公立病院の課題と役割について、経済学的な意義を明らかにすることができる。 平成25年度は、公立病院の分析に加え、昨年度に引き続いて子ども医療費の無料化の実施が家計負担に与えた影響の計測と分析を行った。公立病院の分析は、資源配分・所得分配の観点から重要な役割とされる人口過疎地域の医療サービス供給と、高度特殊・重症救急患者の医療サービスである災害医療の2つについて行った。2つの分析は、前者を沖縄県の公立病院・搬送体制を事例として、後者は愛知県の伊勢湾台風災害を事例として論文を作成し、公刊した。 前者の論文の主要な結論は、(1) 沖縄県ではへき地・離島の診療所、自衛隊や海上保安庁の国の機関、救急搬送を行う市町村消防、そして県立病院と、関係機関が連携して患者の救命と治療を行っている、(2) これは沖縄県の地理的特性である島嶼性が生み出し、確立させた、沖縄独自の医療制度となっていることである。 後者の論文の主要な結論は、(1) 災害時には医療需要と医療供給のバランスが大きく崩れ、特に公立病院の医療供給機能の大幅な低下が問題となる、(2) 医療供給機能の低下には、直接的な建物破壊と、インフラ(電気・ガス・水道)の停止による間接的な要因がある、(3) 伊勢湾台風災害では水害という顕著な特徴があり、特にインフラの停止による医療供給機能の低下が深刻であったことである。 子ども医療費の無料化の実施に関する影響の計測は、大容量データの利用可能性を検討し、その分析コードの開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究では、地方自治体が設置・運営する公立病院を分析対象とし、その役割と目的関数に関する理論的・実証的研究をとりまとめることが当初の計画であり、おおむね順調に進展している。 平成25年度では、沖縄県の公立病院・搬送体制を事例として、論文「医療保険制度における公立病院の役割と搬送体制-沖縄の医療、および島嶼を事例として-」を公刊した。また愛知県の伊勢湾台風災害を事例として、論文「伊勢湾台風災害における医療救護活動と病院機能に関する調査」を公刊した。 公立病院の分析に加え、昨年度に引き続いて子ども医療費の無料化の実施が家計負担に与えた影響の計測と分析を行った。学会報告で頂いたコメントを参考にして論文の改定を進めている。 総務省統計局が提供する全国消費実態調査の大容量データの利用可能性を検討し、擬似ミクロデータを利用して、その分析コードの開発を行った。この分析コードと分析は、論文「Stataによる擬似ミクロデータ(平成16年全国消費実態調査)の分析-Quantile regressionsによるエンゲル曲線の推定-」として作成した。 本稿の分析から得られた結果を要約すると、次のとおりである。(1) 食料の支出シェアは釣り鐘型に近い分布であったが、医療サービスの支出シェアは右裾に大きく広がる分布となっている。(2) どのpercentileにおいても食料、医療サービスは必需財であった。(3) 食料はより豊かな家計になればなるほど、その嗜好のばらつきは小さくなるが、医療サービスはその逆の傾向を持った。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画は、次のとおりである。平成24年度の研究では、地方自治体が独自に行う子ども医療費の無料化と家計負担の関係について、先行研究のサーベイを行い、その効果を理論的・実証的に明らかにする。平成25年度の研究では、地方自治体が設置・運営する公立病院を分析対象とし、その役割と目的関数に関する理論的・実証的研究を取りまとめる。平成26年度の研究では、その先行研究のサーベイを踏まえ、ニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる公立病院改革の効果と成果について明らかにする。また研究最終年度であるので、研究全体の総括を行う。 今後の研究は、子ども医療費の無料化と家計負担に関する論文の投稿とその改定を進め、その公刊を行う。討論等によって指摘を頂いた点についての追加的分析を行い、公的統計のミクロデータが利用可能な場合には、その利用申請を行い、それを用いた解析を行う。 また同時に当初計画どおり、公立病院の役割と目的関数に関する理論的・実証的研究を進める。現在、公立病院は深刻な財政問題を抱えており、総務省は『公立病院改革ガイドライン』により指定管理者制度、地方独立行政法人化、PFI活用による整備・運用、民営化等のニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる改革手法を推奨し、改善を目指している。このように重要な経済問題である公立病院改革であるが、先行研究に関する詳細なサーベイとその評価が行われていない。本研究では、事例や経営指標を利用してサーベイによる評価を実施する。 最終的には、本研究で得られた研究成果を活用し、公立病院における経済性と公共性、そのバランスのあり方を明らかにする。
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