研究課題/領域番号 |
24530262
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
篠崎 剛 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (80467266)
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キーワード | 政治活動 / 世代重複モデル / 人的資本 / 所得不平等 |
研究概要 |
本研究の目的は,利益団体が存在するもとで経済政策が各国の所得水準に与える影響を,世代重複モデルを用いて理論的に明らかにすることである。 本年度は,(1)公債水準と政治活動の関係についてまとめた昨年度の論文をInternational Institute of Public Financeにて報告し,(2)新たなモデルの構築するという2点を行った。(2)については,資本市場の不完全性のある小国の世代重複モデルを用いて,最適遺産税が採用されることにより政治献金活動を行う誘因の持つ主体(未熟練労働者または熟練労働者)の政治活動が,国内の所得分配に与える影響について研究を行った。これは論文“The effect of lobbying on income distribution in an OLG model”にまとめることができた。既存の研究では,資本市場の不完全性と所得不平等の関係に焦点をあてたものが多かったのに対し,本研究では,所得水準について異質な個人が存在するもとで政府の最適政策が採用されるとき,内生的に政治活動を行う誘因が生まれることに注目し,それら経済主体の政治献金活動が所得配分に与える影響についての研究を行うという特徴を有している。分析の結果,(1)所得の低い未熟練労働者がロビー活動を行う場合は,所得の不平等は縮小するものの,中間層が未熟練労働者になる割合が増加すること,(2)所得の高い熟練労働者がロビー活動を行う場合は,所得の不平等は拡大するものの,中間層が熟練労働者になる割合が増加することが明らかにされた。これは政治家が所得水準の不平等の改善と中間層の所得改善を同時に達成することができないことを意味しており,政治活動により生じる新たなトレードオフととらえることが出来る。これは同志社大学およびイタリアのカターニャ大学でのワークショップにおいて報告することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の研究計画では(1)教育があるもとでの人的資本蓄積モデルをまとめること(2)ロビー活動が存在するもとでの公債の持続可能性について明らかにした動学モデルをまとめることにあり,それらはおおむね順調に進んでいる。(1)については連携研究者と2国モデルで新たな知見を得ることに成功し,(2)については昨年度のInternational Institute of Public Financeおよび早稲田大学でのセミナー報告を通じて,研究の進展をはかることが出来た。 さらに現在,カターニャ大学のIsidoro Mazza教授とともに,“The effect of lobbying on income distribution in an OLG model”をまとめ,本年度の国際学会で報告する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針は,1.過年度に本研究費において研究を行った(1)人的資本と国際間の経済成長との関係,(2)公債の維持可能性と政治活動,(3)垂直的政府が存在するもとでの政治活動が政府間補助金水準に与える影響および(4)最適遺産政策と国内の所得不平等の関係,についてをまとめること,2.過年度に行うこととしていた動学的枠組みにおける租税競争とロビー活動の関係についての修正を行うこと,の2点を行う。後者について,具体的には,初年度,マルコフ過程を考慮したモデルの構築を意図していたものの,モデルの性質上それが困難なことがわかったため,現在は,ラムゼイタイプの動学的な租税競争モデルに政治活動を入れることおよび2期間のみの資本蓄積が存在するモデルに政治活動を入れることでのモデル構築に取組んでいる。
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