研究概要 |
本研究では、国内の大型企業同士、ならびに国内外企業の合併について、公正取引委員会が用いている既存の企業結合ガイドラインを見直し、現在の日本ならびに世界の経済事情により整合した合併基準を策定することを目標としていた。ただし、昨年度のこの欄に記載したように、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)との共同研究が難しくなったため、提携して進めず、現状では理論的分析を進め、最終的にはCPRCのメンバー個人の協力を仰ぐことは続ける。 本年度の理論研究として英文雑誌に掲載が認められたのが次の論文である(*)。垂直的関係(例;卸売企業と製造企業)にある2つの独占企業が企業結合することにより、消費者余剰の変化の推定に関して新たな測定方法を提示した。具体的には、第3種価格差別で用いられている測定方法を垂直的関係にある独占企業間の結合に対して応用することにより、費用の変化が価格に影響を与える指標であるパス・スルーを用いて、消費者余剰の上限と下限を解析的に導出した。結果として、上流企業と下流企業のマークアップ比率が高くなればなるほど、または、上流企業と下流企業のパス・スルーの比が高くなればなるほど、企業結合後の消費者余剰の増分に関する上限と下限の比は高くなる、ということを示した。消費者余剰の水準は企業結合の是非を考える際には非常に重要であり、この結果は本研究のガイドラインの一環となることが期待できる。 (*) Takanori Adachi and Takeshi Ebina, "Double Marginalization and Cost Pass-Through: Weyl-Fabinger and Cowan Meet Spengler and Bresnahan-Reiss", Economics Letters, Vol.122, Issue 2, pp.170-175, February 2014.
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