1、地方分権化前後の1975から2009年までの16行政地域別・11産業別地域所得データを用い、フィリピンにおけるこの期間の産業構造及び空間構造変化が地域間所得格差にどのように影響を及ぼしてきたかを、研究代表者が開発した地域間格差2次元分解手法を用いて分析した。この分析の主な結果は、以下のとおりである。(1)マニラ首都圏など7行政地域を含むルソン地域内の所得格差は総地域間格差の約85%を占めており、総格差を決定する主な要因となっている。すなわち、フィリピンの総地域間格差を縮小させるためには、ルソン地域内の格差是正が必要である。(2)最貧地域であるイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)とカラガ地域など6行政地域を含むミンダナオ地域内の地域間格差は、ARMMとカラガ地域が分離された1990年代中盤以降、大きく拡大している。マニラ首都圏をルソン地域から除いた場合、フィリピンの総地域間格差は、2000年以降ミンダナオ地域内格差によって大きく影響を受けている。(3)マニラ首都圏を含めた場合、ルソン地域におけるサービス部門所得地域間格差の寄与度が大きく上昇しており、2009年には総地域間所得格差の約65%を説明している。一方、製造業を含む第2次産業所得の地域間格差の寄与度は減少しているが、製造業からの所得の地域間格差は依然総格差の32%を占めている。2、全国社会経済家計調査データにより構築された2000年から2009年までの地域パネルデータを用いて、インドネシアにおける都市化と家計間消費支出格差のパネルデータ分析を行った。この分析によると、都市化と消費支出格差の間にはクズネッツが提唱した逆U字の関係があることが分かった。2010年における都市化率は50%で、これは格差がピークとなる都市化率を超えており、更なる都市化は消費支出格差を減少させる可能性がある。
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