本年は、2004年の配偶者特別控除上乗せ廃止が既婚女性の労働供給に与えた影響の推計をほぼ終え、セミナー発表を行った。上乗せ廃止は、既婚女性の予算制約線を下へシフトさせるが、このシフトの大きさは人により違う。よってこのシフトの大きさをトリートメントとして差分の差分法による推定を行った。さらに、北海道大学の安部由紀子教授を共著者として迎えたため、推定の結果に多期間モデルを基にした解釈を加えることができた。予算制約線のシフトは、配偶者特別控除の最大額が72万円から36万円に減額されたことにより起こり、シフトの大小は夫の限界税率により決定される。シフトの大きさは平均で6万円ほどである。多期間モデルによれば、2004年に配偶者特別控除が縮小される前に、生涯所得の予想額が減少するから、既婚女性の労働供給は2004年以前にすでに変化しているはずである。よって、我々は差分の差分法に、リードエフェクトを入れて推定を行った。推定の結果、上乗せ廃止が労働時間及び労働参加に及ぼす影響は微小であることが解った。
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