研究課題/領域番号 |
24530278
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
畔上 秀人 京都学園大学, 経済学部, 教授 (90306241)
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キーワード | 規制緩和 / 金融機関店舗 / 店舗サービス / 個人年金保険 / 農協共済 |
研究概要 |
平成25年度の研究は、前年度までに得られた研究成果を論文としてまとめる作業から開始した。具体的には、2002年10月の銀行窓口販売解禁以降、国内及び外国生命保険会社が供給した個人年金保険の新契約件数と国内銀行店舗数との関係に変化がみられることを、2001年から2009年までの隔年都道府県データを用いて検証した。統計的分析における特徴は、保険会社の都道府県内契約金額シェアから算出したハーフィンダール指数と、本研究で新たに作成した金融機関店舗数を表す指標とを、説明変数に加えたことである。その結果、国内生命保険会社が供給する個人年金保険の新契約件数は、銀行窓販開始以降に銀行店舗数を表す指標から有意に正の影響を受けていることが示された。この結果は、既存の手法では得ることができず、本研究独自の発見といえる。同時に、2000年代後半は競争度が高い地域ほど契約件数が増えているという傾向も明らかになった。 上記を含めて平成25年度前半までに得られた研究成果を国際学会で報告し、その議論を経て次の作業に取りかかった。まず、個人年金保険においては、主要な保険会社ごとにデータ期間を増加させてパネルデータを構築し、分析した。その結果、新契約件数と国内銀行店舗数との間に有意な正の相関が観測された保険会社がいくつか存在することがわかった。一方、既存研究では、個人年金保険は生命保険契約金額等で代理される遺産動機と負の相関があるとされるが、本研究ではその結論は得られなかった。 続いて、金融機関の競争が体現される店舗分布に関する研究においては、市区町村レベルでの分析を進展させた。ゆうちょ銀行を除く銀行及び協同組織金融機関については、店舗を設置していない地域が多数あり、地域の店舗数を決定する要因を実証的に示す際、問題となっていた。そこで、これを打ち切りデータとしてトービット・モデルで推定し、OLS推定よりも高い説明力があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画は、(1)データベースの拡充、(2)統計的分析、(3)研究発表、(4)データの追加、である。預金取扱金融機関の店舗数に関するデータベースについては予定通り整備できた。しかし、それを用いた統計的分析を試みると、一部の仮説に対して頑健な結果を得ることができなかった。そこで、データを都道府県単位から市区町村単位に、精度を上げる方向で再整備することにした。そこで改めて地域に存在する店舗数が影響を受ける要因を探った。得られた結果は所属する研究会での発表、及びそこでの議論を経て学術論文として公刊した。 データの追加は、個人生命保険と個人年金保険を予定していたが、主に後者のデータをより充実させた。具体的には、各保険会社単位での契約について、件数と金額、新規と保有による4種類で、2001年から2010年までの10期間を整備した。このデータベースについては、都道府県単位によるパネルデータ分析を行い、アジア太平洋リスク保険学会(Asia Pacific Risk and Insurance Association)の年次大会で結果を発表する機会が得られた。学会における議論を踏まえて研究結果は論文にまとめ、専門誌に投稿した。現在掲載審査が行われている。これに先立つクロスセクション・データを用いた分析についても論文を作成し、国内の学会誌から公刊した。 ここまでについては、当初計画よりも進んで研究が実行されている。しかし、実施可能であれば行う予定だった金融機関へのアンケート調査は実行しなかった。これは、今後の店舗展開に関するものだったが、事前のヒアリングによってあまり有効な回答が得られない時期であることが分かったため、実施時期を再考することとした。 以上の通り、当初計画はほぼ実行され、次年度の研究も問題なく進めていくことができる状態である。
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今後の研究の推進方策 |
全3年の研究期間のうち2か年を消化し、(1)金融サービス市場では競争とともに規模が拡大している分野がある、(2)全体としての市場規模が拡大していても地域間では傾向が異なっている、という事実が明らかになってきた。最終年である平成26年度の当初研究計画は、より進んだ実証分析の継続であり、それは実行する。しかし、部分的なテーマでは当初計画よりも早く結果が得られたため、理論分析を深化させることとする。すなわち、個人のリスクに対する選好の相違が現れる効用関数を用いて、金融サービスの需要関数を導出するモデルを設定する。そして、実証分析から得られた数値を用いて、外的環境の変化による個人の行動の変化をシミュレーションする。ここから得られた結果は、市区町村単位での実証分析において変数選択を行う際に利用する。 具体的な活動としては、平成26年5月に開催される国際地域学会世界大会において、金融機関の店舗サービスを計測する新指標に関する研究報告を行う。金融商品の取り扱いに関する法律や制度が異なる外国の研究者と直接議論することにより、研究の発展につながる意見が得られると予想する。また、農業協同組合が供給する共済の契約状況について、保険会社との競争関係等に着目した研究を、学会において報告する予定である。報告を行う学会については、現時点では未定であるが、アジア太平洋リスク保険学会年次大会での審査を受審しているところである。 残る研究期間においては、本課題の研究活動全体をまとめる作業を行う。銀行の店舗規制は1990年代に緩和されたが、預金取扱金融機関店舗での保険商品販売の解禁は漸次行われ、自由化されてから経過した時間は短い。従って、こうした規制緩和が個人に与えた影響を評価するにはもう少しの期間を経て得られるデータを用いるべきである。本課題はその基礎になるものであり、今後の分析に貢献できるように結果を残す計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
正の次年度使用額が生じている理由は、最後の支出が年度末に近い時期であり、当該年度での処理ができなかったためである。 上記理由から、次年度使用額は年度内に支出されている。
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