本年度の研究において現時点でまとまった結果が得られているものは、農業協同組合が提供する年金共済に関する分析である。年金共済を保険会社が販売する個人年金保険と同等な商品とみなし、農業に関連する諸変数との関係、保険会社との競合関係について主に分析した。 初めに共済及び個人年金保険の契約実績に加えて地域人口などの情報を用い、2001年度から2010年度までの10か年の時系列と47都道府県で構成されるパネルデータセットを作成した。全データをプールして共済年金新契約実績と他の変数間との相関関係を調べると、地域の農業生産額、組合員数とともに強い相関関係は確認されなかった。また、主な保険会社の契約実績との相関を見ると、明確な負の相関を示す会社はなかった。このことから、農業協同組合の年金共済は、組合員以外に少なからず利用されている反面、保険会社と競合はしていないという仮説が立てられた。 そこで、仮説を検証するためにパネルデータ分析を行った。世帯当たりの共済年金新契約実績を被説明変数として、地域人口に占める組合員数及び他の保険会社の世帯当たり新契約実績を含む説明変数によって推計した。これによると、組合員の比率について正組合員のみの場合、正組合員と准組合員の合計の場合、いずれについても回帰係数は統計的に有意とならなかった。また、生命保険会社の新契約の回帰係数で有意に負となるものはなく、競合性は観測されなかった。 続いて、農業協同組合と生命保険会社との競合性に関する結果の頑健性を見るため、各生命保険会社の契約実績を被説明変数とし、農業協同組合の契約実績を説明変数に含むモデルの推計を行った。8社及び1グループに対して、新契約と保有契約に分けて検証したところ、新契約については1社、保有契約については2社、回帰係数が有意に負となった。これら3社はそれぞれ異なっており、現時点で明確な競合性は検出されていない。
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