研究課題/領域番号 |
24530280
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
篠田 武司 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20115405)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スウェーデン / 移民 / 労働市場への統合 / 社会統合 |
研究概要 |
スウェーデンは、比較的経済が好調である。しかし、他のEU諸国と比較すると、まだ低いとはいえ失業率は約8%で、スウェーデン福祉国家が目指してきた完全雇用とは程遠い状態である。しかし、その中身をみてみるとその多くを青年層、移民、疾病者が占めている。特に移民の青年層は深刻である。スウェーデンへの移民は、70年代までは労働移民であったが、それ以後は難民や亡命希望者がその多くを占めるようになった。そして、この層の失業率の高いことが、全体としてスウェーデンの失業率を上げているのである。したがって、スウェーデンにとって、難民の労働市場への統合、さらにそれによる社会への統合は極めて重要なこととなっている。難民を労働市場に統合しなければスウェーデン社会に移民排斥の感情が高まることが予測されるからである。現実に、2012年の総選挙では移民排斥を主張する Sverigedemokraternaスウェーデン民主党は5.7%の票を獲得した。そうしたなか、本年度は、2010年から新しく定住した移民(難民)の労働市場への統合に責任をもつこととなったArbetsformedlingen雇用事務所を訪問し、移民の労働市場での実態と、その政策またその効果について調査した。とくに当初の計画であった、移民の人口比率が高い市・地域の雇用事務所を訪問した。Kista-Rinkeby, Sordelterje, Stockholmなどである。また比較的平均的な地方都市Vaxjoでの調査も行った。また中央の組織、労働市場庁も訪れ貴重な資料を入手した。さらにまた、移民研究の第一人者であるストックホルム大のWadensjo教授や、ベクホー大学の Ekberg教授などとの意見交換なども行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、予想していたように移民の労働市場への統合は、移民の層が難民・亡命希望者が主な層となることによって極めて困難になりつつある。なぜならば、90年代以降増えているアフリカや中東などからの難民は、スウェーデンの産業が要求するような一定以上の教育水準、あるいは職業経験をそもそも欠いている場合が多いからである。また、そうしたなかで経営者はそもそも応募の書類に書かれた名前によってそうした層であると判断し、採用を見合わせるという実態もあるからである。2010年、新たに居住を許された移民に対する責任をそれまでは移民局や基礎自治体が負っていたが、政府はそれを雇用事務所が持つこととし、政策を変更した。早期の労働市場への統合こそが移民の社会統合の基礎だと判断したからである。それは、重要な判断であり、移民政策の大きな変化でもあった。したがって、今回の調査では、雇用事務所がそもそもどのような政策をもち、その政策が成功しているのかどうかについて調査することを中心とし、上記に述べたような移民の住民に対する比率が高い自治体、地域の雇用事務所を訪問し、調査を行った。移民の労働市場での実態に関する上記のような知見をえただけでなく、政策としては、これまでスウェーデンの伝統であった訓練所での職業訓練プログラムではなく、現場での職業につきながらの実質的な訓練プログラム、あるいは補助金付雇用プログラムが政策として有効であるということなど、一定の見解を持つことができた。またこれまでと違って、雇用事務所は移民を受け入れるくれる事業体への積極的な働きかけをしていることも、あらたにえた知見であった。全体として、当初の目的だった移民密度の高い地域での移民の労働市場での実態の把握、諸政策の内容、その効果などを知見として得ることができ、本研究の本年度たてた当初の目的は達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、①スウェーデンにおける移民の歴史をまず振り返り、特に70年代以降の難民・亡命希望者という移民の増加が、労働市場、あるいは社会にどのような影響をもたらしたのか。②スウェーデンはEUの他の国と比較すると寛大な移民・難民の受け入れ政策をとってきたが、そこにはどのような理念・社会的合意があったのか。③しかし、いまそうした寛大さが一部になくなりつつあるかにもみえる。それはなぜなのか。④それは、移民の労働市場への統合が十分でないことに原因があると本稿では仮定するが、現実にはどうか。⑤労働市場への統合に関して、いま様々な努力・政策が実施されているが、それはどのような政策であり、またそれは成果を上げているのかどうか。そうでないとすればその課題は何か。⑥特に、2010年には新たに流入した移民にたいしての政策が大きく変わり、これまで自治体が移民の統合に責任をもっていたのが雇用事務所の責任となった。では、このことはうまくいっているのか。 こうした問題意識のもとで、2012年度は研究・調査を始めた。引き続き、①移民の比率の高い地域、他方で比率の低い地域での移民の労働市場への統合の実態をそれら地域の雇用事務所で聞き取りすること(昨年度は4カ所で聞き取り。今後8か所程度を予定している)。②移民メンバーが比較的多い労働組合での政策も重要である。スウェーデンは労組の経営への影響力が大きいからである(昨年度は2カ所。今後3カ所程度を予定)。③採用する側の経営者の態度を知ること(製造業-自動車、サービス業-小売業、金融業への聞き取り今後予定)。④研究者との意見交換。⑤その他に、労働市場庁、いくつかの自治体の移民を担当する部局での聞き取り、また⑥移民個人への聞き取りも予定している。こうした①~⑥、あるいは関連する資料の収集もストックホルム大学の図書館で行いながら本研究の目的を達成したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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