研究課題/領域番号 |
24530293
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
塩路 悦朗 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50301180)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 経済政策 / 財政政策 / 経済成長 / 災害 / 計量経済学 / 時系列分析 / 動学的一般均衡モデル / マクロ経済学 |
研究概要 |
本研究の最終目的は大災害などによって民間資本・公的資本の大規模な破壊があった後の公的投資の効果を知ることにある。平成24年度の研究では、多くの既存の実証研究によれば、日本や他の先進国において、公的投資が総生産に与える効果は時間とともに減少してきたとされていることに注目した。平成24年度の第1の研究目的はそのような事実を説明できる現実的なモデルの構築であった。これについては「ストーン・ギアリー型生産関数」という、先行研究にない生産技術の定式化を現実的な経済成長モデルに導入することによって説明が可能であることを示した。またそのようなモデルでは公的投資の増加が民間投資を抑圧する(クラウドアウトする)傾向も経済成長とともに強まることが分かった。平成24年度の第2の研究目的は、上記のような先行研究の結論を、最新の計量経済学の手法を用いて再確認することであった。このため、「時変係数VARモデル」に基づいた研究を進めた。中でも、係数だけでなく、同時点内の変数の分散や変数間の相関についても変化を許容する、より高度な手法を採用した。その結果、公的投資の経済効果の変遷をより正しく評価できるようになったと考える。 これらの研究成果を"Time varying effects of public investment and a Stone-Geary production technology"と題する英語論文としてまとめた。同論文を2012年8月30日にインディアナ大学でのセミナーで報告した。同大学に在籍する第一級の研究者から多くの有益なコメントを得た。これらを踏まえ改善した研究成果を2013年3月14日に国際学会Western Economic Association Internationalの10th Biennial Pacific Rim Conferenceで報告し高く評価された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、平成24年度においては、平成24年度中の研究成果を生かし、早い段階で英語論文の初稿を執筆し、年度を通じて同論文の改訂・改善を進めた。このように初年度から一定の成果を論文の形にまとめることができたこと、また特にこれを有力な国際学会等で報告し多くの専門家から助言を得ることができたことは当初の計画以上の進展であった。またそれらのコメントをもとに論文の改善をさらに進めた。そうした進展ぶりが評価され、「次年度の研究費の使用計画」で詳しく述べるように、平成25年度も既に2つの権威ある国際学会で報告が認められている。 平成24年度の第1の研究目的は、公的投資が総生産を増加させる効果がなぜ時間とともに低下し、その一方で民間投資を減少させる効果がなぜ強まったのかを説明できる、現実的な理論モデルの構築・拡張であった。これを当該年度の早い段階から実施し、上記の論文にその成果を反映させた。 平成24年度の第2の研究目的は、上記のような公的投資の経済効果の変化を、最新の計量経済学の手法を用いて再確認することであった。このため、「時変係数VARモデル」について研究を進めた。特に、この分野の先行研究では用いられていなかった、係数だけでなく、同時点内の変数の分散や変数間の相関についてもそれらが時間とともに変化していくことを許容する、より高度な手法を採用した。係数のみの変化を許容する場合と比べ、実証分析の結果は大きく変わった。公的投資の経済効果の変遷をより正しく評価できるようになったと考える。これらの成果も上記論文に反映されている。なお、同手法は非常に応用可能性が高いものであり、同じ手法を使って、為替レート変動が日本経済に与える影響についても、優れた実証研究を行うことができた。そしてこうした関連研究について得られた知見や他の研究者からの助言も、上記論文の早期進展に役立った。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては平成24年度に基礎を確立した理論モデルをより現実的なものへと拡張することを目指す。また、平成24年度に開始した時系列分析の手法を用いた実証分析を継続・拡張する。さらに、日本の都道府県別データを用いた実証分析に着手する。 理論研究においては、これまでのモデルに名目価格の粘着性を導入し、ニューケインジアン型のモデルへと変換する。時系列分析に関しては、時変係数VARに新たな変数を追加して再度推定を行い、結論が大きく変化しないかを確認する。追加する変数としては実質利子率、投資財相対価格、労働時間、為替レートが考えられる。また、総生産、労働、民間資本、公的資本に関する都道府県パネルデータを用いて、生産関数を推定する。この種の先行研究でストーン・ギアリー型生産関数を念頭に置いて行われた研究は存在しない。また、ここまでの研究成果を国際学会・研究会等で報告し、完成に向けてのコメントや助言を得る。また平成24年度中の研究成果を国際学術誌に投稿する。 平成26年度は平成25年度までに開発した理論モデルをさらに完成度の高いものとする。また、実証分析の手法をさらに精緻化する。理論研究においては、流動性制約に服した家計の存在、実質賃金の硬直性、資本稼働率の変動といった要素をモデルに加える。モデルの構造パラメーターをベイズ手法によって直接推定する。実証分析に関しては、公的資本の入った生産関数の推定を精緻化し、一般化積率法による推定を行う。 平成25年度中の研究内容については、研究報告の中で得られた各種コメント・助言を活かして、モデルや実証分析手法の改良を必要に応じて行い、平成26年度半ばまでに論文を完成させ、国際的学術誌に投稿する。平成26年度中の成果についても学会・研究会等での報告を重ね、論文を仕上げて、年度末までに国際的学術誌に投稿することを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においてはマクロ経済学・財政学・計量経済学の最新動向を調査するため、アメリカ経済学会年次大会への出席に本研究費を用いることを考えていた。しかし幸いにも他の資金からの援助を受け参加することができた。また、インディアナ大学で行った研究報告についても、主催者からの寛大な補助を得ることができた。 その一方で、これまでの研究成果をまとめた英語論文、"Time varying effects of public investment and a Stone-Geary production technology"はすでに、平成25年度に行われる2つの権威ある国際学会に向け採択されている。第1はAssociation for Public Economic Theory第14回国際大会(2013年7月、ポルトガル・リスボン)であり、これは公的投資を含む財政政策に関する第一級の専門家が世界中から集う重要な学会である。第2はEuropean Meeting of the Econometric Society第67回大会(2013年8月、スウェーデン・イエテボリ)であり、これは欧州における最大級かつ最も重要な経済学会である。これらの学会で研究成果を報告し多くの研究者と意見交換を行うことは今後のプロジェクト進展にとって重要である。よって平成24年度分研究費の一部をこの2つの学会への参加登録料、旅費に充当することとしたい。 このほか、平成25年度の研究費を用いて、上記以外にも、国内外で研究報告の機会を多く求める予定である。また、できる限り計算・統計ソフトウェアの状態を最新に保つよう努力する。消耗品についても補充に努める。また、災害と経済学の関係に関する最新の研究成果(東日本大震災に関するものを含む)の収集に努める。進歩の著しい計量経済学の手法を研究し続けるため、関連書籍を購入する。
|