研究課題/領域番号 |
24530293
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
塩路 悦朗 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50301180)
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キーワード | 経済政策 / 財政政策 / 時系列分析 / 予想形成 / 株式市場 / 政策アナウンス / 災害 / マクロ経済学 |
研究概要 |
平成25年度中は2本の研究論文を公刊し、7つの学会で研究報告を行うなど、大きな研究成果を挙げた。特に大災害後の公共投資の効果を理論的に論じ、時変係数VARという新しい統計手法で分析した論文、"Time varying effects of public investment and a Stone‐Geary production technology"を2つの有力な海外の学会で報告し、いずれの機会においても重要な助言を得た。これにより、上記論文が提案するストーン・ギアリー型生産関数を組み込んだ、動学的一般均衡モデルを開発するための研究が進展した。また上記論文で本研究者が発展させた時変係数VAR手法の有用さを示す研究論文(2本)を2つの国内学会と2つの国際学会(国内開催)で報告し、うち1本は国際的な査読付学術誌であるAsian Economic Policy Reviewに公刊することができた。もう1本も近日中に国際的な査読付学術誌に投稿予定である。同年度中のもう1つの重要な進展は、全く新しい研究を構想、これに着手し、年度内に第1稿完成にこぎつけたことである。本研究の主テーマである財政政策のマクロ経済効果に関する文献で繰り返し問題にされてきたのは、多くの場合、新たな政策の発動は実際の支出が行われるよりはるか前に家計・企業に予期されているという事実である。これは政策が政府内での議論、国会での審議等を経て時間をかけて実行に移されるからである。この問題に対処するため、日経新聞等の情報をもとに将来の公共投資に関する新たなニュースがあった日付を確定し、その日における関連企業(建設会社)の株価の変動を見ることでニュースの重要性を評価する、全く新しい「財政ニュース指標」を構築した。最近、森田裕史氏(学術振興会研究員)に要請して同研究を今後は共同で進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度においては、「財政政策の多くは発動以前に民間経済主体に予想されている」という、マクロ経済学者が財政政策の効果をデータから推定する際に直面する難問に対する一つの解決策を見出すことができた。この着想は当初の研究計画にはなかったものだが、当研究の質を向上させ、国際的な評価を高めるうえで、重要なステップとなったと信じる。特に、本研究の最終目的である、大災害後における公共投資の効果を考える上でこの発見は重要である。我々の研究によれば、東日本大震災のような大災害があるとその直後に(すなわち同日内に)市場参加者は将来の公共投資増大を予想し、関連する建設業者の株価は高騰する。したがってこの時点で家計の消費行動、企業の投資行動の調整が開始されると考えられる。もし研究者が、復興予算の執行が開始されてからはじめて人々の行動が変化するという前提で分析を行ってしまったならば、公共投資の効果を正しく捉えることはできないであろう。我々が新たに開発した財政ニュース指標のデータをこれまで行ってきた時変係数VARによる統計分析に組み入れることによって、災害後の公共投資の効果をより正しく分析できるようになると期待される。 また、ストーン・ギアリー型生産関数を組み込んだ動学的一般均衡モデルの構築に関しても、国際学会で論文報告した際に出席者から貴重なコメント(主にモデル中の財市場の定式化の改善に関するもの)を受け、これを分析に組み入れたことによって、大きく研究を前進させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の第1の目的はこれまで執筆してきた3本の論文をさらに改善し国内外研究者の助言を仰いだうえで、これらを完成させて英文学術誌に投稿し、国際的な評価を受けることである。すでに同年度内に3回の論文報告が確定し、2つの国際学会に応募中、1つの国内学会に応募予定である。まず、"Time varying pass-through"をSociety for Nonlinear Dynamics and Econometrics(4月18日、ニューヨーク)で報告することになっている。同論文はここで得られたコメントをもとに最終的な改善を行い、同年度前半中に国際的学術誌に投稿する予定である。また、"Construction of stock-market based daily index of fiscal news for Japan"を東京大学マクロワークショップ(5月8日)及び設備投資研究所内の研究会(6月26日)で報告予定である。同論文についても、これらの機会に得られたコメントをもとに改善を進め、早期の完成を目指す。また"Time varying effects of public investment and a Stone‐Geary production technology"についても投稿準備が整いつつある。同年度の第2の目的はこれまでの研究成果を統合、昇華させた2本の研究論文の執筆である。そのうち1本目は主に実証研究であり、これまでに行ってきた時変係数VARによる財政政策の効果の測定に我々の開発した財政ニュース指標のデータを組み込むことで、特に東日本大震災後に公共投資の効果がどのように変化したかを分析する。また、同分析に都道府県レベルのデータを組み込むことで、被害が地域的に集中する災害とそこからの復興過程の影響をより明確に分析できるようにする。2本目はより理論的色彩の強い論文であり、本研究で開発した新しい生産関数の定式化を組み込んだ動学的一般均衡モデルを展開する。また同モデルのベイズ推定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な理由は海外学会での研究報告が平成26年4月になったことである。本研究者は早くより、同年開催のSociety for Nonlinear Dynamics and Econometricsコンファレンスへの論文投稿・報告を企図していた。この学会は平成25年においては3月中に開催されたので今回も同様に予想し平成26年度の研究費を当てることにしていたが、平成26年においては4月初の開催となった。このため、主にこの学会への渡航費等を支出するため、平成25年度研究費の一部を平成26年度へと繰り越すことになった。 繰り越した分については主に上記学会出張のために使用する。このほか、平成26年度の研究費を用いて、国内外で研究報告の機会を多く求める予定である。すでに1つの国内学会(日本経済学会2014年度秋季大会)に応募予定である。また、できる限り計算・統計ソフトウェアの状態を最新に保つよう努力する。消耗品についても補充に努める。また、災害と経済学の関係に関する最新の研究成果(東日本大震災に関するものを含む)の収集に努める。進歩の著しい計量経済学の手法を研究し続けるため、関連書籍を購入する。 平成25年度より、株式市場の分析という新たな側面が研究に加わったため、関連する文献の収集に努め、また(データがこれまでと比べ大規模になるので)コンピューターによる計算能力の拡充・向上の努力が一層必要となる。
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