日本における都市間鉄道は1987年に基本的に幹在一体で地域分割民営化された。その際に例外として東海道新幹線については全区間を東海旅客鉄道(JR東海)が運営を行うのに対し、東京熱海間は東日本旅客鉄道(JR東日本)が、米原大阪間については西日本旅客鉄道(JR西日本)が並走する在来線の運営をおこなうこととなった。これにより当該区間については幹在複占の状況が、また熱海米原間については幹在独占の状況が生じた。本年度は本研究課題の最終年度として、このような背景のもとでこれらの異なる競争条件が利用者費用および都市間鉄道の価格にどのような効果の差異をもたらしたのかについて分析を行った。具体的には、上述した複占地域と独占地域のそれぞれで完結する発着地のペアを観測単位として新幹線によるトリップの所要時間と金銭的費用のデータを1986年と1996年の2時点間について収集し、差の差の検定を用いて分析した。結果として、複占による競争の増加は、独占的サービス供給が行われている区間にくらべて利用者費用および価格の両方が相対的に有意に低下していることや、とくに利用者の時間費用がその低下の大きな部分を閉めることが明らかになった。 またこれと並行して在来線についても同様の分析を行った。具体的には独占地域と複占地域のそれぞれについて在来線の駅を発着地とするペアを観測単位とするデータセットを国鉄民営化前後の2時点について構築し、在来線によるトリップの価格と時間費用を非説明変数として差の差の検定を行った。この分析の結果においては時間費用の変化に優位な違いはなかったが、複占により競争が促進された地域では鉄道サービスが幹在一体で独占的に供給されている地域にくらべて運賃が有意に低いことが明らかとなった。
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