本研究プロジェクトは、2011年3月11日に発生した東日本大震災で、震災によって直接被害を受けた地域で生産活動の多大な低下が見られただけでなく、日本国内の他の地域の生産活動もサプライチェーン途絶を通じて顕著な生産低下の影響を受けたことに着目し、この現象を地域間産業連関表を使って再現することを試みた。このための一つ目の工夫は、産業連関の標準的な前方連関分析の手法を修正して、製造業から製造業への投入のサプライチェーンの一次段階で中間投入の代替ができないという課程を追加したことである。こうしたボトルネック効果の仮定を維持しつつ、このプロセスを3回まで繰り返し、サプライチェーンの第3次川上産業まで遡った影響を推計した。いま一つの工夫は、都道府県別の多地域産業連関表を利用して地域間産業連関表を修正し、震災によって生産活動に特に重大な被害を受けた4件(岩手、宮城、福島、茨城)を独立な地域として分離させた独自の地域間産業連関表を作成したことである。また、こうした分析の理論的背景と、分析前提の根拠となる文献レビューを論文に追加した。分析の結果、東日本大震災後のサプライチェーン途絶による生産活動への被害の大きさは、少なくともGDPの0.35パーセント程度であったことが分かった。また、多地域にサプライチェーンを分散させることによって間接被害を約3割強ほど低減できる効果の大きさを推計した。また、初期段階の研究では、より大きな地域区分の既存の地域間産業連関表を使って推計を行っていたものを、新たに被災地域都道府県を個別の地域区分として独立させた独自の地域間産業連関表を作成した分析を行い、両者を比較することによって、地域データの整備の重要性を指摘した。
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