研究課題/領域番号 |
24530297
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山下 隆之 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (20252158)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 経済政策 / 経済理論 / システムダイナミックス / 政策シミュレーション |
研究概要 |
本研究の準備段階で、わが国の対外直接投資には過去5回のピークが存在することが分かっていた。1回目は1973年、2回目は1981年、3回目は1989年、4回目は1999年、5回目は2008年である。いずれも円高基調の時期と重なっている。対外直接投資の内訳(産業分野や投資先)から検証すると、当初、鉱業、農業、林業、水産業の分野における資源開発型の投資が行われたが、1985年のプラザ合意以降はドル安・円高により輸出競争力が低下した製造業における海外生産が増大したことが分かる。1980年代は日本と欧米諸国との間で貿易摩擦が起こったが、これを避けるために投資が進展した。日本の製造業による現地生産は、現地の雇用創出にも寄与したからである。近年は、第三次産業分野での対外直接投資も増えている。 本年度は、第三次産業分野の投資が増えている理由に焦点を当てて研究を進めた。産業別・企業別の投資データからは、日本の製造業企業の海外進出を橋頭保として、それにサービス産業が後続するという展開が進行中であると考えられる。その理由を探るために、製造業の進出とそれを支援する流通業を想定した理論モデルを作成して分析を進めた。そして、 1.自国通貨高では、製造業者にとって、対外直接投資は輸出よりも大きな利潤をもたらすこと、2.自国通貨高による出荷価格の高騰は小売業者の負担が大きいが、直接投資の下での小売業者の利潤は輸出の下でのそれを上回ること、3.直接投資の下での海外販売量は貿易による海外販売量を上回ること等を明らかにし、研究論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)円高と対外直接投資の関係を解明して、(2)日本の空洞化の特性を明らかにし、(3)その理論モデルを構築し、(4)空洞化シミュレーション・モデルを開発して、円高対策が国内産業へ与える政策効果を検証する。 研究開始の平成24年度は、わが国の円高と対外直接投資の関係を調べた。統計データから産業別の投資状況を把握し、為替相場の変動と直接投資との間には一貫して負の相関係数があり、自国通貨安(円安)と対外直接投資がトレードオフの関係にあることが確認された。また、近年は自国通貨安と国内の物価高の間に正の相関が見られることもわかった。 実証分析の結果を説明する理論モデルの構築のため、当初の計画を前倒しして、モデル作成を始めることにした。平成25年度に予定していたVentana Systems社のVensim DSSの購入を早め、シミュレーション・モデルの開発に着手した。学外の研究会等で実務家からの意見を聞く機会を得たが、モデル分析を展開する上でのヒントを得ることができた。 総じて、初年度としてはまずまずの滑り出しであったといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始後に、いわゆる「アベノミクス」が登場したことで、為替相場が円安に振れるようになった。この急激な円安がわが国企業の対外直接投資や国内の労働需要に与える影響は現時点では不明であるが、本研究にとっては興味深い資料を与えてくれるものであり、国内動向に関する分析の比重を高める必要が出てきたと考えている。 また、シミュレーション・モデルの開発にあたっては、円高に加えて、円安の影響をシミュレートできるものへと発展させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
わが国の空洞化の特性を把握するにあたっては、欧米における空洞化の進行と日本の進行とを比較しながら研究を進めることが望ましい。このため海外出張を準備していたが、学内業務との日程重複が発生したため、出張を断念せざるをえなくなった。このため、旅費を繰り越すこととしたが、データ収集の遅れもあり謝金の一部も次年度に繰り越すこととなった。この遅れを取り戻すことが次年度の課題である。
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