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2014 年度 実施状況報告書

為替変動と産業空洞化のダイナミックス

研究課題

研究課題/領域番号 24530297
研究機関静岡大学

研究代表者

山下 隆之  静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (20252158)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2016-03-31
キーワード対外直接投資 / 産業空洞化 / 為替変動 / 政策シミュレーション
研究実績の概要

本研究では、(1)円高と対外直接投資の関係を解明して、(2)日本の空洞化の特性を明らかにし、(3)その理論モデルを構築し、(4)空洞化シミュレーション・モデルを開発して、円高対策が国内産業へ与える政策効果を検証する。平成26年度は、(2)のステップを就業先の製造業から第三次産業への移行という視点から見直すことで、(3)と(4)のステップを進めた。
対外直接投資による国内製造業の雇用減少が第三次産業(広義のサービス業)の生産性の高い分野に吸収されていれば、国民経済全体としては産業の空洞化が問題となることはない。この点を明らかにするため、1970年以降の全就業者数における製造業のシェアと一人当たり実質GDPとの関係を調べた。米国やノルウェーでは製造業の雇用シェアが低下しても一人当たりGDPが伸びているのに対して、ドイツは1度、オランダは2度、英国は4度、一人当たりGDPが減少する負の空洞化(negative deindustrialization)の時期を経験していることが分かった。そして、日本は、1990年代後半から負の産業空洞化の状態に陥っていることが判明した。日本の場合はその経験こそ1度であるものの、近年になって生じた現象であることと、その期間が長いことが他国には無い特徴となっている。
なぜ日本では第三次産業への移行が一人当たりGDPの成長に繋がらないのかという問いについて、製造業と第三次産業との間に労働者の流出入を仮定して就業者データ間のキャリブレーション (calibration)を試みたところ、移動障壁(mobility barrier)の存在が確認できた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年度は日本の製造業が対外直接投資を選択する理由について探ることを目的として研究を進めたが、今年度はその選択が国内の就業構造に与える影響について分析を進めた。日本の非製造業は製造業で生じる雇用減少を吸収する力が不足しているのではないかという疑問から、伝統産業(第一次産業+鉱業+建設業)、製造業、第三次産業の3つの産業区分の間で就業者が流出入するマクロ経済モデルを考案し、対外直接投資の進展が与える影響についてシミュレーション分析を行った。製造業から第三次産業への移動障壁が存在していることと、第三次産業の生産性の低さが脱工業化のトレンドを成果の少ないものにしていることが分かった。
このモデルを、System Dynamics SocietyによるThe 32nd International Conference(2014年7月20日~24日,Delft University of Technology, オランダ)にて発表した。Conferenceにおいては、負の空洞化の存在を明らかにしたことと、円高による空洞化の進行をコンピュータ・シミュレーションで再現したことに関心が集まった。
また、資料収集で訪問した英国では、現地の研究者とのディスカッションを通して、第三次産業を労働生産性の高い産業と低い産業とに区分して雇用への影響を考える必要性に気付かされた。例えば、金融業のような生産性の高い第三次産業分野は一人当たりGDPの成長にプラスに働くが、雇用吸収にはうまく働かない。
以上、研究を進めて行く上での改善点が得られた1年であった。

今後の研究の推進方策

2015年に入ってから、製造業の“Reshoring”(国内回帰)という現象が報道されるようになった。この現象は2010年から米国で観測され始めて、2014年には同様の動きが英国やドイツでも報道されるようになったが、日本では円安の長期化がもたらした新しい現象である。製造業の国内回帰の進展を調べることで、空洞化が可逆的な現象かどうかを実証的に解明したいと考えている。
また、空洞化のマクロ経済モデルを補完する形で進めている都道府県別の研究では、純移出の動向と地域間格差の関係を調べ、その結果に基づいて、双方向的な基盤産業の移出入を仮定した2経済モデルの開発を試みたが、その改善も進めたい。

次年度使用額が生じた理由

データ収集のために予定していた平成24年度の海外出張を校務の関係で中止せざるをえなくなった。その後の調査で海外進出企業の経営動向を利用する方法が分かり、データを揃えることができたため、未使用額が発生した。その金額を有効に活用するため、期間延長を申請することとした。

次年度使用額の使用計画

国内外から研究に関する問い合わせがあり、その成果発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2014

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Negative Deindustrialization: Japanese Experiences2014

    • 著者名/発表者名
      Takayuki Yamashita
    • 雑誌名

      Proceedings of the 32nd International Conference of the System Dynamics Society

      巻: 1 ページ: 1-12

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 移出主導型経済モデルの動学化2014

    • 著者名/発表者名
      山下隆之
    • 学会等名
      システム・ダイナミックス学会日本支部
    • 発表場所
      専修大学 (東京都千代田区)
    • 年月日
      2014-11-22 – 2014-11-22
  • [学会発表] Negative Deindustrialization: Japanese Experiences2014

    • 著者名/発表者名
      Takayuki Yamashita
    • 学会等名
      System Dynamics Society
    • 発表場所
      Delft University of Technology (オランダ, デルフト)
    • 年月日
      2014-07-20 – 2014-07-24

URL: 

公開日: 2016-05-27  

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