本年度の研究では、東アジアにおける地域間所得格差における要因の一つとして産業構造変化と部門間の労働生産性の違いに焦点をあてて分析を試みた。Rodrik(2013)は国際データを用いて、製造業部門における労働生産性に強い収斂性がみられるものの、非製造業部門では収斂性があまりみられないため、産業構造変化すなわち工業化の比重が高い国家間で所得レベルの類似性がみられるとした。東アジアにおける産業別の労働生産性の時系列データを用いてパネル単位根検定を行ったところ、Rodrik(2013)とは異なり、東アジア全体での製造業部門における収斂可能性は低いことがわかった。一方で、農業部門においては収斂可能性がみられた。ただし、所得レベルの時系列データの標準偏差の推移をみると、Rodrik(2013)やMcMillan and Rodrik(2014)などと同様に農業部門から製造業部門への産業構造変化が地域経済の収斂に影響を及ぼす可能性が高いことが示唆された。なお、東アジア地域において農業部門と製造業部門の労働生産性の格差は拡大する傾向にある。 また、経済社会統計の記述データ分析からは、労働生産性の違いの要因として産業構造や就業構造のほかに教育、貿易開放度、FDIなどで特徴がみられる。特に、第三次産業の比重が高いアジアNICSと日本では高等教育就学率、貿易開放度、FDIなどの統計値は高く、これに第二次産業の比重がやや高い東南アジアと中国が続いている。 今後の課題として、時系列データ分析では構造変化(structural break)を考慮したパネル単位根検定による収斂可能性の再検証を行うこと、また地域内外における生産要素移動、特に労働移動がもたらす生産要素価格の変化などについて分析を深めていく必要がある。
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